久しぶりに深く長く眠った気がする。


その眠りが穏やかすぎて、心地よすぎた為に目蓋を開ける時間がいつもより遅すぎた程に。


それでも、眠りから私を呼び覚ましたのは体の下から響く僅かな振動によってだった。


心地よさから引きずり出された不快感から眉根を寄せて目蓋を開けると、目の前に広がる見目麗しい男の寝顔。


ビクリッと体が反応したけど、強烈だった一琉の存在を忘れきれる筈もなく。


あっ、一琉か。なんて暴れた心臓を落ち着かせると、未だに私の下で震える物を手探りで取り出した。


一琉の携帯か…。


そう言えば夕べマットレスの上に投げていたっけ。


なんの気なしに待ち受け画面を見つめると、手の中で震えるそれは着信を知らせている物で。


着信相手を確認して頭の中に疑問が浮かぶ。


下僕……?


げぼくさん?


そんな名字あるのか?


とりあえず隣のスリーピングビューティを揺り起こしてみる。


「一琉~、電話だよ。起きて~、一琉~?」


結構しっかり起こしにかかっているのに一琉は中々起きない。


困った。


それでもしつこく鳴り続けるそれは早く出ろ。と急かしているようで、かなり迷ったあげく応答ボタンを押してみた。


だけどすぐに後悔。


“ いちるぅぅぅぅぅ!!!”


うるっさ……。


眉根を寄せて瞬時に騒音の元を耳から離す。


持ち主も非常識なら電話してくる相手も非常識らしい。


スピーカーにしなくても響く声はかなりご立腹らしく、その言葉を具現化出来るんじゃないかと言うほどだ。


“ てめっ、何隙をついて逃げてんだコラァッ!!今から行くから逃げんじゃねぇぞ!!”


なんだ?ヤクザ?


あまりに一方的に叫び続けるからどのタイミングで口を開いていいのか分からず。


イライラしたのもあって、その声以上の声を張り上げてしまった。



「うるっさーーーーい!!!」



私の声がボロいアパートの一室に響き渡るのに、尚且つ眠り続けている一琉は強者だ。


自分以上の怒号に電話先の相手もようやく黙って、一息つくとゆっくり話しかけてみる。



「あの、一琉なら今寝てますが…」


“ ……………誰?”



間の抜けた声で動揺を表すその言葉にどう答えるか迷ってしまう。