振り回されたこの2時間、最後にこれだけは言っておかないと。


「一琉…」


「何?」


「………私の前から消えないで」



私の譲れない条件だ。


ただ一言そう言っただけなのに、訳知り顔でニッと笑うと一琉は私をキツく強く抱きしめてきた。


「それが……、凪からの条件?」


「譲れない条件だよ」


「なら、守らないとね……、凪の傍から離れないよ。それこそ、ピンで刺して留め置いても構わない」



ゾクリとする返事に安堵の涙が零れてしまった。


私の条件の意味や根本に何があったかなんて知らないくせに…。


一琉の胸に顔を押し付けて泣いてしまう。


久しぶりの温もりに安心した心は自分が思っていたより弱っていたらしい。


一流の私の頭を撫でる仕草も優しくて、甘えてすがって子供の様に泣きつきたい。



「凪……、寂しかったんだよね?」


「……何も知らないくせに、知ったかぶらないでよ」


「あのさ、凪。寂しくなかったらあんな所に座り込んでた不審者を招きいれたりしないよきっと」


「自分が頼み込んだんじゃん!」


「うん…、だってさ、一目見た時に気づいたんだよね。

あっ、寂しそうな目。って……。

だから、つけこんで上がりこめると思った」



一琉の抱きしめる腕が緩まって、私の涙で濡れた顔を覗きこむ。


わざわざ泣き顔を覗きこむなよ!なんて、ムッとするのにあまりに優しい微笑みで掻き消された。


あっ、一琉の目は色素が薄くて綺麗だな。


至近距離で見つめるそれに見惚れていると、ゆっくり近づく顔の距離。


唇が触れそうなくらい近づいて、一琉の唇が言葉を紡いだ。



「ね、寂しい。って、言いなよ凪…」



駄目だ、一琉の言葉や表情は頑な私の心をゆるませる。


強がれない……。



「………っ…、寂しい…から……傍にいて…」



零れた言葉尻は一琉のキスに飲み込まれた。


出会って数時間の男に、まさか自分の押し殺してた本音をさらけ出すなんて思ってもみなかった。


いつの間にか涙は止まっていて、乾いた涙の跡が引きつり始める。