好きな子?


何だかピンとこないのは知り合ってまだ2時間しか経っていないからで。


この場合の好きの度合いは合コンなんかで、この子好き。レベルにしか値しない気がする。



「叔父さんは応援してくれるよね?」



何となく聞いていた会話だけど、脅すようにも聞こえた響きは無視しよう。


ってか、私の意思なんか関係なく進んでいく一琉と自分の微妙な関係が整理出来ない。



「じゃあ、俺いまからその子と駆け落ちするから」



驚いて一琉を射抜く様に見つめてしまった。


駆け落ちなんて私との言葉遊びの延長だと思っていたし、私に対してもからかって遊んでいるだけだと思ってた。


通話が切られ乱暴にマットレスに投げられた携帯を、落ち切る所まで見守った後に一琉に視線を戻すと。


妖艶でぞっとしてしまう位の男に見下ろされた。



「凪、何で顔してんのさ…」


「……再確認していい?」


「どうぞ?」


「私が好きなの?」



安っぽいセリフだと口にしてから思ったけれど、今一番知りたいのはこの感情面の確認の言葉なんだ。


私の質問に綺麗な顔の口元が弧を描いてから答えを呟いていく。



「うん、好きになった。

だから、好きになっていいよ凪……」




何て一方的な言い分なんだろ……。


ぽかんとして一琉を見上げてしまう。



「婚約者……は…、どうするの?」


「もともと、結婚する気ないし。凪のが断然可愛いから」


「私が、嫌って言ったら?」


「好きって言うまで追いかけ続けるよ」



当然だろ?と言いたげな一琉の視線に反論する言葉が見つからない。


だって自分でも分かってる。


私は一琉のどこか掴み所のない性格に惹かれ始めているんだ。


好きになってもいい。……か。


小さく溜め息をつくとようやくゆっくり立ち上がって、一琉の近くに寄ってみる。


改めて並ぶと15センチ位の身長差だろうか?


黒髪に端整な顔。


私の人生におおよそ関わってこなさそうな人なのに。


その目を覗くと色素が薄い茶色の目が私を同じように見つめてくる。