その行為にどんな思いがあるのか分からず、不意に一琉の胸を押し返して説明を求めてしまう。


一琉は優しい笑みと仕草で私の頬に触れた。



「凪が好き。………ううん、きっともっと好きになる。どうしよう、ごっこじゃ足りなくなるかもしれない」


「一琉……?」


「ねぇ、凪……、恋人ごっこじゃなくて……

俺と駆け落ちしませんか?」




時計の針が23時を過ぎた。


一琉と知り合ってから2時間。


ひらひらと人を翻弄する妖しい男が裸で私の上に乗っていると言う異常事態で提案してきたのは駆け落ちだった。


あまりに現実味のない言葉に固まっていると、一琉が私の意識を確認するように目の前で手をプラプラさせると私の名前を呼んだ。



「か、駆け落ちって何?」


「駆け落ちって、好き合ってる男女が…」


「待って、意味は知ってる。そうじゃなくてさ、何で駆け落ちなの?」



その質問に、一琉は少し考えこんでから言葉を濁しながら口を開く。



「俺の事情かな…」


「一琉って何?」


「凪の恋人……」



ニッコリと笑って言い切る一琉は、これ以上の自分に関しての情報は漏らすつもりはないらしい。


本当に何者なんだこの男。


駆け落ち……。


その事を頭で考えている時に再び一琉の携帯が鳴りだした。


一応確認はするらしい一琉はタオルをようやく腰に巻いてから携帯を確認して、何故か口元に弧を描くと今度は着信に応じた。



「はいはい、叔父さん?」



上機嫌に対応している所を見ると、さっきの着信相手ではない事がわかる。


この間に乱れた服を元に戻しながら一琉の会話をなんとなく聞いてしまった。



「うん、逃げちゃった。叔父さんとこにでも行こうかと思ったんだけどさ」



そこまで言うと何故か私を見つめて含み笑いをする一琉。



「好きな子出来ちゃった」



会話の流れは全然分からないけど、何だろう、遠回しに告白されたらしい。