その髪から水滴が私の頬に落ちてきた。
凄艶で危険を孕んだ双眸に見下ろされて鳥肌が立つ。
冷静になった頭で逃げ出す様に身体を捻ると、うつ伏せになった状態で押さえこまれて捕まった。
「逃げないでよ凪……」
「逃げなきゃ……一琉に壊される……」
畳を目の前に捉えながら、速くなる動悸に怯えてしまう。
これ以上かき乱される前に早く……。
「ねぇ、分かってるくせに」
「嫌、言わないでっ…」
一琉の唇が耳の近くで恐れている言葉を紡いだ。
「俺の事好きになりそうで恐いんでしょ?」
その瞬間に自分の中の防壁を内側から壊された気がして涙が零れた。
嫌だったのに、気づいて溺れてしまったら取り返しがつかないというのに…。
「凪……、運命って信じる?」
一琉にしては陳腐な言葉だ。
いや、一琉が言うから違和感がない?
「信じない……」
言うと同時に一琉の指先が私の服を捲りあげて、背中に唇を這わせてくる。
同時に滑る指先が私の下着の金具を外してしまって、開放感を得た胸元に緊張感が高まった。
「一琉……やめて……」
「凪の肌は綺麗だね……、特に……」
一琉の指先が滑り続けて腰の位置で止まって撫でた。
「ここが好き………」
一琉の唇が指先で触れた部分に熱を落とす。
一気に熱くなった体が切なくて辛い。
「金魚すくい。って言うんだっけ?」
一琉が唇を当てたまま呟いて、珍しく知っていた日本文化に僅かに笑った。
「凪もすくいあげて俺の中に捕らえてあげようか」
「……一琉は網で捕らえて針で刺す?」
「俺を捕らえたいの?凪……」
分からない。
でも、近くでこの不可解な動きでひらひらする蝶を見ていたい。
「一琉はひらひら蝶みたい……」
「凪はゆらゆら金魚みたい……」
その言葉を示す様に一琉の唇が再び私の腰に当てられた。
一琉の体に蝶が舞うなら、私の体に金魚が泳ぐ。
赤と黒の金魚。
それが私の腰の刺青。



