「そうだな……、みんなで入る大きなお風呂かな?」
「温泉とは違うの?」
「なんだ、温泉は知ってるんだ?あそこまで規模は大きくないよ」
へぇ~、なんて納得したまま水を滴らせたままの一琉に溜め息をつきながらタオルで頭から拭いていくと。
大きな犬みたいにされるがまま受け入れる一琉。
腹部辺りまで拭いた時に、再び蝶の刺青に視線が行ってしまう。
無意識にその部分に触れてしまって、精巧で妖しいそれに見惚れていると、一琉が堪えきれずにクスリと笑った。
「凪のエッチ…」
「失礼な。綺麗だなって思って…」
「触り方がいやらしい……ってかさ、この状況がいやらしくない?」
一琉がニヒルな笑みで私を見下ろして、今の状況を確認させてくる。
あっ、確かに……、なんかエロい。
見ていた部分は腹部とはいえ、裸の男の腹部を膝立ちで見つめて触れていた状況は確かに妖しくいやらしい。
パッと離れてみたけれど一琉の笑みが消えずに困る。
「凪ってさ、純情だったり誘惑的だったり危険な女の子だよね…」
「一琉、タオル巻けば…」
「全部駆け引きだったりするわけ?」
「ね、お願いだから、服着て…」
「凪も脱いでよ……」
妖しい微笑みで見下ろされ、危険な言葉で誘われる。
濡れてしっとりとその黒い髪が艶やかに一琉の綺麗な顔を引き立てる。
掴み所のない言動や行動はまさに蝶のようにひらりと動いて。
紫の蝶は一琉そのものだと思ってしまった。
一琉に会ってから、私の今までが崩されていく。
一緒にいたら危険な人かもしれない。
「一琉……、やっぱり、出てって……」
「いきなり?酷くない?」
「私の中で危険人物って判断したの」
「そんなに誰かと関わるのが嫌?」
鋭い一言だと思った。
私の心の内の中心にあるものを突いてきて、ザワリと危険信号が鳴ってしまう。
一琉の危険な魅力が恐い。
だって、いけない……。
いつの間にか泣そうな表情になっていた私を、更に追い詰める様に一琉が笑って、座り込む私に目線を合わせてしゃがんでくる。
「凪……、凪はもう、分かってるんでしょ?」
「し、知らない。分からない……」
「なら、試してみる?」
決して乱暴にではなく、優しく私を押し倒した一琉。



