もう、何年も、味わっていなかった、感触が。

自分の右頬を転がり落ちて行った。

左からの泪は、葉山祈があてたハンカチに、吸い込まれていった。


「っ――――」


すると、堰を切ったように、あとからあとから涙が溢れ出てきてしまう。
慌てて掌で覆おうとすると、急に視界が真っ暗になった。

ふわりとした、感触。

気が付けば、葉山祈が、僕を抱き締めていた。

いつかの、雨の日の、公園の時のように。


――やっぱり。結局、救われてたのは僕の方だ。


こんな数えきれない人々の埋め尽くす空港で。
その雑踏から逃げるかのように、ひっそりとしたベンチに、座っていた僕を、彼女は見つけ出して、そして。


――『朱李さんは、先生に、自分の為に、泣いて欲しくなかったんじゃないですか……?』


朱李の気持ちを。
あの時の答えを、教えてくれた。


――朱李……もしかしたら君は、いずれ自分が、居なくなってしまうことを、予期していて……。


レオニスでいてね、ではなくて。
レオニスになって、でもなくて。


『私の為に、泣かないで』


不器用な、朱李の、僕へのメッセージは、それだったのか。
何度も何度も、繰り返し、聞かされた、あのメッセージは。