言いながら、私はハンカチを、取り出す。


「レオニスは、自己暗示をしているだけなんですよね?周りの期待に応えるために。」




私が初めて神成の前で泣いた、あの夜に、神成が貸してくれたハンカチ。


今朝鍵と一緒に鞄に入れていた。
それは一種の癖のようになっていて、いつも持ち歩いて帰宅しては、元の場所に戻し、また翌朝持っていく。


機会があれば返そうといつも考えていたからだ。

その機会は中々やってこなかったが。



いつかはくしゃくしゃのままポケットに入っていたハンカチは、綺麗な四角になっている。


「!」


私は、そのハンカチを、四角のまま、神成の目の下にそっと当てた。
一瞬だけ、神成の顔に緊張が走る。


「先生。ハンカチは、形を変えなくても、涙を拭くことが、できます。」


さっきから何も言わない神成の代わりに。


「先生の見えない涙も拭けます。」


泣けないこの人の代わりに。


「レオニスの、涙が、私には、見えるから。」


私が、この人の分、涙する。



「……僕の事をレオニスと言ったのは、朱李なんだよ……。弱さを見せない、強い星だって。。。」


私の泣き顔を見て、神成の眉間の皺が深くなり、呟くように、そう言うと、どうしてか微笑んだ。まるで、安心させるように。


この人は、こんな風にして、周囲の為に、いつも笑ってきたんだ。だから、いつも笑ってるように見えるんだ。


だから。



「……アカリさんは、自分がいなくなっても、先生が、強くあれるように、きっと、先生をレオニスにしたんですね。」



ぼやけて。
霞んだ視界。
熱い雫が、ぽたぽたり。