レオニスの泪



「けい…慧っ」


転げるようにして中に入ると、知らない香水の匂いがした。

消えていたはずの部屋の電気が、煌々としていて、真夜中の暗さの場所に居たのに、急に真昼のような明るさで、目がチカチカした。

気が動転しているから、靴を乱暴に脱ぎ捨てたのに、片方が付いてきた。


「慧?慧?」


直ぐ様、居間を抜けて、和室に向かうが、引き戸の向こうに敷いてあった布団はもぬけの殻になっていた。

掛布団をひっくり返してみたが、やはり慧の姿はない。


「慧!?」


隠れんぼをしている訳じゃない。

そんなことは分かっている。

だけど、どこにも慧が居ない。

押し入れの中も、お風呂場も、台所も、カーテンの裏も、洗濯機の中も、全部。

どこもかしこも。

捜しても探しても。

慧は、見つからなかった。