レオニスの泪

だが。

「…………」
「つかまって。」
「すみません……」

身体に力が入らなくて、けれど、この車から出たい一心でもがくようにすると、神成が体重を支えてくれ、外に出してくれた。

神成に寄りかかるようにして、やっとやっとで、外に出ると、冷たい風と、沈んだ色の街灯の下、一人の男が気を失って倒れていた。

それは間違いなく、木戸だ。


「怖かったでしょう。遅くなってごめんね。もう少し早く来れば良かった。」

震えが止まらない私を、神成が優しく宥め、話しかけてくれるのを心地よく感じながら、、パトカーが駆け付けるのを待ちつつ。


――ヒーローみたいだった。


そう、思っていた。

ドラマのような展開で、神成は私を助けに来てくれた。

誰かが助けくれる、なんてことは、なかったのに。

なかった筈だから、私は誰にも頼れずに生きて来たのに。

こんな現実は、今迄味わったことがない。

――当たり前のように、助けてくれた。

慧を産んでから、ずっと見て見ぬふりをされてきた、私のことを。


――助けてくれる人は、いるんだ。


その事実に、無性に感動して、胸がいっぱいになった。

同時に。


――でもそれはやっぱり、私がアカリさんに似てるから、なんだろうなぁ。


苦い思いも、込み上げてきた。

神成にここまで大切にされる、『アカリ』が、羨ましかった。