「はっ」
車の後部座席が開けられ、そこに押し倒された私は、一瞬だけ解放され、酸素を求める魚のように、空気を欲して貪った。
――こわい恐い恐い恐い。
身体が震えているのが分かる。
そんな私を見つめながら、木戸が上着を脱ぎ。
「夜は、一人で出歩いたら危ないよねぇ。」
そう言い放って、シートに手を付き、私に覆いかぶさろうとする。
「……嫌っ」
私は目を瞑り、手を突き出して、抵抗のかすれ声が漸く音となった瞬間。
ヒュ、と。
風と。
バキッ
大きな音がして、同時に、強く感じていた気配が、忽然と消えた。
「…………?」
何があったんだろう、と、恐る恐る瞼を開く。
その先には、開け放たれたドアと、誰もいない空間が広がっていて。
さっきまでは感じなかった北風が、出入りしては、私の頬を掠めていく。


