ぞくっとした。
まだ何もされていないのに、首を圧迫されているかのような錯覚に陥る。
木戸の目は、いつも冷たく見える。
今は、それに輪をかけて冷徹そうで、狂気すら孕んでいるように見えた。
声さえ出せば、何か異常な事があったと、誰かが気付いてくれるかもしれない。
だけど、声は出ない。
「辞めたら俺と離れられるとか、終わりになるとか、思った?」
訊かれても、答えることも出来ないが、木戸は答えを求めているようには思えない。
返事を待っている素振りはなく、一方的な物言いだった。
「甘く見られたもんだ。」
「っ!?」
次の瞬間、私は腕を引っ張られ、その拍子に自転車が音を立てて倒れた。
鈍い痛みが身体に走り、同時に煙草の味がして、キスをされているんだと知った。
――嫌だ。
抗うが、力任せに抱き締められ、ぎりぎりと音がしそうな程で、男の力を前にして、自分は無力過ぎる。
声を出そうにも、出ないし、出せない状況。
息を吸う事すら、難しい。
そのまま抱き上げられ、車の方へと木戸が運ぼうとしているのが分かる。
――嫌だ!
ありったけの力を籠めるが、どうにもならない。


