レオニスの泪




「――え……?」


パッと離れて、数歩後ろに下がると、神成が振り返る。



「じゃ、こんな夜遅くにすみませんでした。――帰ります。おやすみなさい。」

「祈さん?!」



今度は私が、神成に背を向けて、自転車に飛び乗り、逃げるように走り出した。

きっと、私は金曜日になったら、何食わぬ顔して、神成の家に行き、仕事をこなしているだろう。

新しい仕事が見つかるまではそうして、見つかったら、もう本当にさよならだ。


神成を抱き締めた手で、ハンドルを握る。

冷たい空気を切ることによって、指先の、体温が下がり、冷えていく。



微かに残る、熱が、全部消えたら、この充電はきっと切れてしまう。



神成との距離は、物理的には近いのに。

実際は果てしなく遠い。