レオニスの泪



私は、真っすぐに神成を見つめた。

「やっぱり、何かあったんでしょ。」

神成の表情は静かで、動揺の片鱗すら見えない。

私の顔色を窺うようにして。

「寒いでしょう。中に入って。」

エントランスの方へ、向かおうとした。

――高望みし過ぎか。

淡い期待は見事に崩れ、神成にあっさりかわされた。
今だけでいいから。
あの夜みたいに、神成の方から、抱き締めて欲しかったのに。


結局最後まで上手く物事は運ばない。


――私の人生みたい。


そう胸中で呟いてから、前を歩きだした背中に、抱き着いた。

細身の腰に、ミントの香り。


「祈さん……?」


神成はぴたりと動きを止めて、名前を呼ぶけれど、私はそれには答えずに、神成に回した手に力を込める。

――好きです。

――貴方の傷を、私が治せたら良かったのに。



「ごめんね、先生。」


声に出さずに言った言葉と、声に出して言った言葉は、正反対で、お互いそっぽを向いているから、ひとつには、ならない。