レオニスの泪



――いつなんだろう。

マンションへの道のりを自転車を走らせながら、ふと考える。

ライバルと呼ぶ目の前の建物が出来上がったのは、今年の春だった。
一緒に住んでいたと考えるなら、比較的最近、神成はアカリさんと別れたという事だろうか。

そうすると、知り合った時がぎりぎり位になるんだろうか。

と考えると、時間が上手くない気がする。

気になりだすと、【アカリ】さんのことはきりがない。

――やめやめ。

頭をぷるると振って、止まらない思考を追い払う。


今だけ。

今回だけ。

一度だけ。

この一回だけは、【アカリ】さんのことも、【慧】のことも、忘れて、【神成伊織】という人にだけ、会いに行こう。

色んな絡まる糸を、全部ハサミで切って、はらったら。

案外残ったものは、少なくて。

というか、ひとつだけで。


【スキ】


二文字が、バツイチには重い。

ずっと捨てられずに取っておいたもの。

それだけが、ぽつんとひとりで、私を見上げていた。