「何もしないで、隅っこでただぼうっと道路の方を見てるんですよ。『何してるの?』って訊いても、はぐらかして笑うだけで…。」
実際何をしているのか、決定的な瞬間は捉えていないのだそうだ。
だが、ちょうど、先生たちの手が空かない時に慧が姿を消すように思える、と先生は言った。
「慧くんに変わった様子はなかったか、以前にお訊きしたのはそのせいだったんです。ただ一人で外を見ているだけなので、とりたてて何かっていう事じゃないですから…こんなことをお伝えしてお母様の不安を煽るのもどうかなと思ったのですが、少し気になったものですから…」
「…はぁ…」
先生のはっきりしないもやもやとした話に、私自身も曖昧な返答しかできない。
言われてみれば最近の慧は着替え用の服をそのまま持って帰ってくるし、着ている服には、泥や土が付いていない気がしたが、さっきも女の子達と遊んだと話していたではないか。
もうすぐ卒所だし、慧だって一人になりたい時期なのかもしれない。
子供にだって、そういう時もあるだろう。
「分かりました、一応、訊けたらそれとなく訊いてみます。気に掛けてくださって、ありがとうございます。」
私がそう言うと、先生は僅かに強張っていた表情を和らげた。


