レオニスの泪


夕方。

「ママぁーおかえりなさいっ」


保育所に迎えに行くと、友達と遊んでいた慧が、すぐに飛んでくる。


「ただいま。」


仕事なんか辞めてしまったのに、このやりとりをする事への罪悪感は、有給中にどこかへいってしまった。

更には、命を断とうとしたことだって、麻痺したみたいに今は頭の隅へと追いやられている。

身体全体に、膜がかかっているようなー言葉で表そうとするなら、そんな感覚だった。


「今日ねぇ、ねねちゃんとすみれちゃんとねぇ、遊んでねぇ、僕ねぇ、お父さん役をやったの。」

「へぇー!良かったねぇ。」

楽しそうに話す慧に、複雑な心境になりつつ、適当な相槌を打った。

身支度を整えさせながらそんなやりとりをして、帰ろうとした瞬間、担任の先生に呼び止められる。


「葉山さん、ちょっと良いですか?」
「え…あ、はい。」


ポニーテールを揺らす、私より年上の先生だ。


「慧くん、ママとちょっとお話しがあるから、ここで待っててくれる?」
「えぇー?うん…いいでーす。」


先生が、そう言って、やや渋る慧を私から離れさせた。