レオニスの泪


あの夜から、連絡は一日に二回ある。
それは多分、忙しい神成の手が空いた時間なんだろうと思う。


ーマメな人。

画面と睨めっこしながら、考える。

水曜日じゃなくても、神成に会える。

その事が、縮んだ距離を際立たせる。


《はい。》


悩んだ結果、短い返事を打った。

仕事の事は、会って話そうと思ったし、木戸との出来事は、思い出すのを避けたくて、頭に上らないようにした。

今心に溢れさせたら、何も手につかなくなるし、慧を迎えに行くことすらできそうにない。ドロドロとしたものが、一度零れ出てしまったら、自分を制することができない。

だから、考えないようにした。

だから、録り溜めたドラマを、ぼーっと観ていた。

身の入らない視線で、ずっと画面を見ていただけ。

勿論、内容なんてちっとも頭に入ってなかったけど、それすら気付かず、終わったら削除していった。


ーこんな風に、嫌な出来事も、全部消していけたらいいのに。


必要な事だけ覚えていて、あとは忘れていい。

それが可能なら、私はこんなに苦しくなかった筈だから。