========================
「何があったの?」
ガチャガチャ、調理場の音が遠くに聞こえる。
「………」
ここにきて、直ぐに探した木戸の姿は、もう何処にもなく、ほっとする。
数分前、店内に入ることが出来ず、入り口の前で青ざめた顔をして突っ立っていた私を見つけた他のスタッフが、金森を呼んできてくれたのだ。
そして、金森は、動けない私の手を引き、休憩室に連れてきて、椅子に座らせて、自分も向かいに腰掛けた。
「木戸さんに、何かされたの?」
バックヤードに足を踏み入れた瞬間、身体が硬直した私に、金森は気付いたようだったし、朝の様子を見ても、何かが起きたことは明白だったろう。
極め付けが、泣き腫らしたこの目だ。
「ちゃんと話して。私、葉山さんを守りたいのよ。」
金森は、優しいトーンで、促す。
散らばった筈の私の荷物と、菓子折りの入った袋は、机の上にきちんと置かれていた。
喉の奥が、貼り付いたみたいに、中々声が出しづらかったが。
「ーーーー私…ここ、辞めます。」
やっと溢れた言葉は、これだった。


