あのライオンは、確か、あの季節は見えなかった。
でも、今はー
今は、見えるんだろうか。
この寒い冬に入った今なら。
怖い敵から逃れて、安心して、この広い空を走っているのだろうか。
『何があっても、絶対に、僕を、忘れないで。』
小さな熱と、疼きが、途端に沁みていく。
例えるなら、雪の日の冷たくかじかんだ指を、僅かに温めるマッチひとつの炎のような。
強い熱ではないけれど、それだけで自分の身体が冷え切っている事に気付かせてくれる。
ー神、成先生…私、また…
その熱から出た涙が一個、コンクリの上に、ぱた、音を立てて、染みる。
『自分がどれ程弱いか認めることができたらー初めて、人は強くなれるんだ。』
パタパタパタ。
急に湧き出てきた涙が、頬を伝った。
「っく……」
私はー、
弱いです。
脆いです。
だから、逃げ出してしまいたくなるのに。
弱さを認めたら、ふりだしには戻りませんか。


