高い事を、怖いなんて、少しも思わなかった。
心が麻痺していた。
普段なら、そんな端に行っちゃダメだよ、と注意するのに。
「…誰に、するんだっけ…」
誰に、注意するんだっけ。
僅かに思考が彷徨うけれど、直ぐにどうでもよくなった。
もう、いいか。
なんでもいいか。
そうして、一歩踏み出そうと、ずっと下にある地面を見て。
ふと。
ーそうだ。
どうせ、さよならするのなら。
下の世界じゃなくて、上の世界を見ながらがいい。
そう、思った。
だから顔を上げたら。
どんよりした雲は、いつの間にかどこかに消えて。
空は青くて。
太陽が、間近にあった。
眩しくて、直視できずに、目を細めると。
『…このライオンは、太陽にくっついて動いてる。』
瞼の裏に、いつか、誰かが言っていたコトバが、蘇る。
『ライオンのように強いものだって、怖いものは怖いんだ。』
『ライオンだって、泣く時が、あると思わない?』


