レオニスの泪



屋上には、コンクリの床と、青いベンチがふたつあって。

灰色のフェンスが、囲っていた。

誰もいない。

ごしごしと、痛い位に、木戸に触れられた頬を右手で擦り。

思い出した恐怖で、小刻みに震える身体を左手で抱えた。

誰も居ないことに、安心した。

誰も、入れたくない。

自分の中に、誰も入らないで。

入ってこないで。


「………、っ」


辛い。
苦しい。

涙も出ない。
カラカラ。


力の入らない足取りで、一歩一歩、フェンスに近付く。

掴んだら、カシャンと音を立てた。

眼下に広がる人間も、道路も、車も、全部がちっぽけで。

まるで、私に気付かない。

そう思ったら、フェンスを乗り越えていた。

ガシャガシャ、と音がしても。

私以外、聞こえない。