レオニスの泪


外来の患者で混み始める時間に、階下には行きたくない。

頭で考えたというより、反射的に私は非常階段を駆け上がった。

展望ラウンジがある階も通り過ぎて、ただただひたすら上に。

上に。上に。上に。


息は苦しいまま。



だけどもっと苦しい事があったから呼吸の仕方を忘れても、何とも思わなかった。



脚が階段を踏む音と、自分の荒い息づかいだけが、聞こえる。


それを頼りに、上へと向かう。

意志とかじゃなく。

ただ、単に全部投げ出したくなって。

そしたら、足が勝手に動いた。



そして、ついにー




施錠も何もしていない屋上の扉の前に辿り着く。



すんなりと容易く開くドアノブを、躊躇いもなく回して外に出ると、強い風が私の髪を撒き散らした。


冷たい風だった。

冬の匂いが、鼻をツンとさせる。