あの男とは、恐らく木戸のことだ。


「な…んで…」


なんで分かるんだろう。
だって、木戸と神成は面識もない筈だし、私はそんな話をしていないのに。



慧が、戸を一枚隔てた向こうで眠っている。

声のボリュームはお互い小さい。


「やっぱり。待ってないで早く来ればよかった…」


狼狽える私の足首をク、と掴み、神成は溜め息を吐いた。

その息が足先にかかり、思わず引っ込めてしまいそうになる。


「発作は?何かあったらどうするの?携帯の番号も教えたよね?」


畳み掛けるように、神成が責めるから、驚きで止まっていた涙がまた湧いてくる。




「だ…って…」


いつからこんなに簡単に泣くようになってしまったんだろう。

自分のことが情けない。


「だって…もう、終わりかと…思っ…て…」


ああもう。

上手く説明することすらできない。



「、、言っちゃったから…」


ボロリ、大粒の涙が転がっていく。


好きだと伝えた時点で、アウトだとは分かっていたから。
膨らまないように必死でしてきたのに、消えないどころか、強くなるばかり。