裏返して見てーーー
ガチャガチャ、音を立てて鍵を開ける。
近所迷惑かもとか、自分が今どんな姿かとか、外は寒いだろうかとか、靴履くかとか全てがすっぽ抜けて、飛び出した。
予想以上にヒヤリとした空気が頬を撫で、薄い長袖の上から容易に肌を刺す。
それでも。
「ーーー先生っ!!」
踊り場からまだ小雨降る暗闇に目を凝らす。
捜している相手が居るのかも分からずに、がむしゃらに叫んで、がむしゃらに階段を下り、道路に出た。
左右を確認しても、人影らしき物は見当たらず。
「な…んで…」
その場に立ち尽くして呟いた。
握り締めたビニール袋と、貼られているメモがくしゃくしゃになっている。
滲んだインクを見つめ、小雨に打たれながら、涙のせいなんだか雨なんだか分からないけれど、視界も滲んでいく。
今迄で二回、見たことのあるー忘れたくても忘れられない、好ましく感じる、線の細いきれいな文字が。
【いつかの落し物です。もう、一人で泣いていませんか?】
神成が、今日もまた、あの公園で待っていたと、私に教えてくれる。
「なんで……待ってるの……?」
ほとんど音にならない声で、途切れ途切れに闇夜に問いながら。
アスファルトの砂利が、素足にゴツゴツぶつかって、少しだけど血が出ていることに、漸く気付いた。


