患者の表情、話、服装、症状、生活諸々。
様々なヒントから、病名や原因を突き止めなければならない。
そのおかげで、人を知れば、自然と『視えて』くるものが、一般の人より多い気がする。
それは、初心を忘れずに経験を重ねた医者ほど強いだろう。
勿論これは僕の持論に過ぎないが。
恐らく戊亥先生もそうなのだろう。
「お前さ…、精神科医の御法度知ってるか。」
だから。
僕が『何』も言わなくても、僕の『何』も知らなくても、一緒に仕事をした『感じ』で、『全て』または『一部分』が視えてしまう。
答えない僕に。
答えられない僕を。
先生は珍しく真っ直ぐ見上げて、はっきりと言った。
「患者とだけは、近くなるな。」
僕の目に、何が映っているのか、僕自身には見ることが出来ない。
だけど、僕には他に方法が何も思いつかなくて。
ただ、笑っていて欲しくて。
禁忌を犯してしまっているとしても、そうせざるを得なかった。


