ぶっきらぼうな話し方をするし、座れば、という声すら掛けてくれない先生だが、余計な位心配性だった。
それは、この人と関われば直ぐに分かる。
だから、戊亥先生は患者に愛されていた。
「僕に、必要な事だったので。」
簡潔に問いに答えれば、戊亥先生は、はっとしたように顔を上げて、僕を見た。
「必要って……」
医者は、感情的な事には必然的に鈍くなる、と僕は思う。
そもそも人が、人の命をどうこうしようなんて、おこがましい話だから。
幾ら真似事をしたって、神になれる訳はなくて、近づける訳でもなくて。
ただ必死に、次から次へと湧いて出る『魔物』と闘って、負けて立ち上がるを繰り返しているだけだから。
『勝てなかった』時に、患者や家族と、感情を共にしてしまうと、『立ち上がる力』が奪われてしまう。
だから、感情は鈍くなる、というより、鈍く見えるよう努力している。
何事にも動じないように。ミスをしないように。
その分、磨かれるのは、洞察力。


