ー矛盾しているか。
じゃあなんで自分は抱き締めているんだろう。
この人のことを。
気持ちも頭も雨にやられてしまったのか、使い物にならない。
やがて。
「………」
柔い髪に回していた腕が、自分よりも大きな、自分よりも冷たい手によってゆっくりと解かれた。
開けられた距離。
神成は上目で私を捕らえる。
相変わらずのやんわりとした大きな瞳で、真っ直ぐに。
「…雨の日は、いいね。涙か雨か、分からなくなる。」
僅かに掠れる声で、神成が呟いた。
「でも、祈さんは泣きそうな顔を、してるね。」
ーそう、かもしれない。
でもそれは、いつものような辛い感情からではなくてー
「僕も、泣きそうな顔、してる?」
「!」
言われて、そうだ、と合点がいった。
神成に、思わず触れてしまったのは。
雨に濡れた神成が、泣いているように見えたからだ。
目が赤い訳ではない。
実際に泣いたんだろうという形跡はない。
全て諦めたかのような、全てを失ったかのようなー
涙以外の泣き方で、泣いているように映ったからだ。