「ご近所さんだし、一緒に帰ろうか。」
打って変わって余裕綽々な表情で、チラリと腕時計を見た神成は私に、そう提案する。
「あ、えと、、」
つられるように携帯のディスプレイに表示された時刻に気付いた私は、当たり前だが迷った。
できれば一人で帰りたい。
何故なら、立場が悪過ぎる。
最後の診察で、自分は、神成に「もう来ない」と言って。
その後、熱を出してお世話になり。
そして、同じ大学病院内に勤めている事が、バレたのではないか、と。
何一つとっても、恐過ぎる。
だが。
「散歩してるとは聞いてたけど、流石にこんな時間だと危ないよ。歩きだけど送ってくから。」
神成は有無を言わせない口調で、そう言うと、向かい合っていた私との距離を縮め、やがて隣同士になった。
「ほら、行くよ。」
お酒を飲んできたというのに、お酒の匂いも、煙草の匂いもしない。
ただ、香る、ミントの香り。
「…はい」
私は観念して、小さく頷いた。