レオニスの泪

「いらっしゃいま…」


文字通り、自分の中の、いや世界の時が止まった。

かのように、感じた。


「珈琲下さい。」

「はい、喜んで!」


固まる私を、笹田が傍に追いやって、がばっと食らいつくかのごとく、接客を始める。



ーなんで。


私は笹田にされるがまま、傍に呆然と突っ立って、ぐるぐる考えた。


ーなんで、ここに、、


この数ヶ月、一度も来なかったのに。


どうして、今日に限って。



ーばれた?私だってばれた?


レジは、基本マスクをしないけれど、風邪をひいている私は、マスクをしている。


だが、本人は、冷や汗をかいている私のこと等まるで気付いていないかのように、淡々と会計を済ませている。


「ありがとう。」


最後に、可愛い顔でにこりと微笑んで、笹田から珈琲を受け取り、ここで飲むつもりはないようで、颯爽と食堂から出て行った。

長い白衣を、翻して。




「っきゃー!!!!見た??葉山さん見た!?今の!!!」


それを確認すると、笹田が興奮して、出口を指差し、捲し立てる。



「あれ!森さんの言ってた人だよね?!首からぶら下げてる奴に、書いてあった!!」


あまりのはしゃぎっぷりに、奥にいた金森から「静かに」と嗜められる程。


「噂の神成先生!超素敵!」


笹田のハートになった目を見ながら、私は、さっきのし掛かった重苦しさが、更に募ったのを感じていた。