レオニスの泪

無論、病院で何かを渡すなんて、勇気を出すまでに10年は掛かりそうなこと、選択肢にしない。

誰かに見られても困る。


だとしたら、マンションか。

かといって、マンションの前で待ち伏せしていたら、怖いだろうし。

ドアノブに引っ掛けて来たくても、あそこは集中インターホンだし、オートロックだし。


鳴らすしかないか。

カメラ付きインターホン。



「嫌だな…」



無理やり飲み込んだものが、胃の辺りで詰まっているかのように、気が重い。



「何暗い顔しちゃってんのよ!」


突然バン!と背中を叩かれて、よろめいた。


「痛いです…笹田さん…」


レジの人と代わって、やや暇な夕方。

調理場も落ち着いてきていて、ランチタイムが嘘のように、静かだ。

食堂内もぽつぽつと珈琲を飲んでいる人がいる位。


だからこそ、ぼうっと突っ立っている私に、手持ち無沙汰になった笹田がちょっかいを出してきたのだ。


「若いのに辛気臭い!女なんだから恋をしないとしぼむわよ!!」


「はぁ、、、そういう笹田さんは、恋してるんですか。」



「ったり前じゃないのよ!永遠に恋する乙女よ!」


「……」


悪い人じゃないけれど。

絡みが面倒だ。



「ずっと恋されてて、ご主人も幸せ者ですね。」

なんとかそれだけ言うと、笹田の顔が分かりやすく引き攣った。