レオニスの泪

「ーママ?」


「ごめんね、慧。」



自分が情けない。


こんな小さな命を、守りきる力すら、自分には無いようで。


子供の前で泣くのはご法度だったから、なんとか感情の波が落ち着くのを待ちつつ、フローリングの線をひたすら見つめた。



「?」


すると、突然、温かく湿った、小さな掌が、私の手の甲にのせられた。

驚いて顔を上げると、慧が私を覗き込んでいる。



「ママ、具合が悪いんでしょ。」


くりくりとした大きな瞳が、私をじっと見つめる。


「あの人、病院の先生だよって言ってた。ママ、風邪ひいて熱出してるから、ちゃんとお薬だしといたからねって。今は、僕は元気だから、僕がママを支えてあげるんだよって。」


付箋のメモに書かれていた言葉が、頭にちらついた。







「ママは頑張り屋さんだけど、今日はお休み、してね。」




「ー慧」






私は、堪らなくなって、慧を抱き締めた。




「ありがとう。」


それは、涙でぼやけた視界を誤魔化す為でもあった。











ー『…なんで先生は、先生になったんですか。』




【僕は大切な人に、笑っていて欲しくて、先生になりました。】




一週間前、神成に問い掛けた質問の答えになる文字が。

似合わないほど、素直で真っ直ぐで。

何故か、無性に胸を焦がしたから。