レオニスの泪

ー駄目だ、帰ろう。


こんな所で、こんな人に、こんな話して。


渾身の力を振り絞って、立ち上がると、神成の胸ポケットに刺さった万年筆が目に入った。



「もう…行きます。」



小さくお辞儀して、立ち去ろうとした時。




「前みたいに笑えるわけない。」



ふらついた私の肩が、しっかりと抱きとめられた、ようだ。



「ーえ?」



白衣の硬さが頬を擦る。



ミントの香りが一気に強まった。


漸く、自分が、神成にもたれ掛かっていることに気付く。


身体が思うように動かず、ガクガクと震えが走った。




「そんなのは、当たり前のことなんだよ。」




私の事を、細そうな外見からは想像出来ないほど、力強い腕が支えてくれている。




ーやばい、本当にキツい。



他者に寄りかかってしまったことからくる安心感は、身体から更に力を奪い取る。




「この身体で、今まできたんだから。」



急に、神成の声が、静かに頭に響いた。


それは、痛いといより、心地良く。




「取り戻すのは、今の笑顔だけで良いんだ」



限界と共に、闇に葬られた。