レオニスの泪

「…もう、帰るんで…放っておいて下さい。」



いとも簡単に触れたその手を、弱々しく払い除ければ。



「医者として?人として?」


不思議そうな声が返ってくる。


「はぁ?何訳わかんないこと…」


「医者としても、人としても、熱を出して転がっている人間を放っておくことは出来ない。」



涼しいミントが、暑さに錯覚を与える。



「あの、ほんと、大丈夫なんで。息子が待ってるんで。」


最終的にはひどくぶっきらぼうな口調になって、なんとか身を起こした。



が、ぶっちゃけ、神成の白衣のポケット部分しか視界に入っていない。

ふらふらする。

頭はガンガンと壁に打ち付けてるみたいに、痛い。



「そんなにぐらぐらなのに?」


降ってくる、呆れたような声によれば、中身がふらふらしているだけでなく、外身も揺れているらしい。



「自転車、なんでしょ?そんなんじゃ乗れないよね。」


「本気で、ほっといてください。」



このリフレインが、段々嫌になる。


今はこんな男に構っている余裕がないのだ。