はっ、はっ、と息を乱しながら私は夜の帳を駆け抜けた。
はやく、はやく、一刻もはやく遠くへ。あいつらが来ないうちに。
足がもつれて転びそうになるが、残り少ない力を振り絞ってなんとか体勢を崩さずに済んだ。暗闇に包まれた森に入ったのは敵の捜索の攪乱のためだが、自分にも足元が見えないというリスクがある。
この森を抜けたら緑豊かなソルベージュ地方だ。さすがにここまでは追ってはこれないだろう。
……でも、もう体力も魔力も底を尽きてしまった。今までそこまで身体の筋肉を使用する機会など無かった私にとって、ここまで来ることができたことが奇跡だったのだ。…………ここで立ち止まるわけにはいかないのだが…………
「どこか……家、ないかな…………」
なんでもいい。今の私には休息が必要だった。少し休ませてくれれば、それで。
しかし至極当り前のことだが、こんなに奥深く広大な森の中に家なんてあるはずがない。それでも私は限りなく低い可能性にかけ、フラフラと歩きながらも家を探した。
何分くらい歩いただろうか。余りにも何時間も森をさまよっていたように思われたが、実はほんの数分だったかもしれない。
あまりにも無謀な試みだったが、私は奇跡的にもポツンと建っていたボロボロな家に出くわした。
それを発見したことは私の人生史上最高の幸運であったと言わざるを得ない。
だって、私はこの家を見つけたお陰で、“彼”と出会うことができたのだから。