ボケッとした状態で、時間はどんどんと過ぎていく。
結局今日は一日中一人でいたような気がする。お昼の時も移動教室も一人だった。気楽なんだなとまた再確認した。ボケ~っとしたまま、空き教室でグラウンドを見つめていた。静かな教室から外を見ているのも好き。
…なんだけど、それはあっさりと壊された。
「ちょっといいかしら?」
「…なんですか?」
また厄介な問題が起きそうでいやな気分。何?また何か言われるの?
「鈴木君と別れたのよね?ならもう側にいないでくれるかしら?」
「それを言うなら本人に直接言えばいいじゃないですか。私に言わないでください。」
「一応忠告はしておくわ。もう側にいないで頂戴。目障りだわ。」
吐き捨てるように言うだけ言って、教室から出て行った。
何しに来たのか全くわからない。でも一つだけ理解した。彼女もきっと冷のファンクラブとかそんな感じのメンバーだろうね。どうでもいいけど。
「もう嫌だ…全部消えればいいのに。何もかも消え失せればいいのになぁ…」
もう何もかも面倒くさいよ。全部消え失せてしまえばいいのに。そうすればこんなにも面倒くさくて苦しい思いなんてしなくて済むんだろうなぁ…そう思っていた。
何もかも捨てられたらどんなに楽なんだろう?
「でもなぁ…死ねば楽になれるだろうし、いっそ死ねばいいかな?でも…お母さんが悲しんじゃうだろうし、死ぬ事だけは候補には入れられないな…どうしたらいいかなぁ?」
鞄を持って教室から出て、のんびりと家に向かった。帰り道の途中で、塀に寄りかかっている冷を見かけた。それでも完璧に無視して、私は目の前を通り過ぎた。
「あのさ…」
「何ですか?」
「その…少し話があるんだけど…」
「私にはありませんが、まぁいいでしょう。」
「公園にでも行こうぜ。長く話す気はないけど、ここじゃ何だし…」
そう言って、私と冷は公園へと向かった。
途中で自販機で飲み物を買って、公園のベンチに座った。
付き合ってた頃はすぐ隣で、スペースとか隙間は一切無かったけど今はある。
数十センチの隙間でも、何だか越えちゃいけないような境界線が私と冷の間には出来た。

「で?話しとは何ですか?」
「あのさ、文化祭最終日の時に屋上にいたんだろ?」
「いましたね、まぁサボりといった方が早いでしょうけど。それが何か?」
「俺が告られた時に言った言葉を聞いていたんだろう?」
私の方を向かないで、冷は話を進める。
正直それはありがたかった。買った飲み物を見ながら私は静かに話しを聞いていた。
「瑠璃は誤解してるだろうし、言い訳にしか聞こえないだろうけど…あれは嘘だから。」
「だからなんですか?はっきり言ってください。」
「俺は瑠璃が嫌いなわけじゃない。好きじゃないって言ったのは、また瑠璃がいじめを受けるのが嫌だったからで…」
「本当に言い訳にしか聞こえないよ。別にもういじめとかそんなもんどうでもいいし、そうなったとしても別れてるんだからどうとでもなる。」
飲み切った缶をベンチに置いて、立ち上がった。
冷の前に立って、冷を見下ろしていった。
「今更そう言われても、もうなんとも思いませんしそれ以上にどうでもいいです。もうこれ以上関わらないでください。貴方が近くにいるだけで、貴方のファンの人達にやられるんです。いじめを見たくないというのなら簡単ですよ。貴方が関わらなければいいだけなんです。…もう答えは見つかりましたよね?」
「…俺がもう瑠璃と話さなければいいのか…?」
「そうですよ。なのでもう話しかけないでください。さようなら。」
冷は私の”さようなら”と言った言葉を聞いて顔を上げた。
信じられないとでも言いたそうな顔をしていたけど、私はきっと冷たい目で冷を見ていたと思う。冷はその後何も言わなかった。
でも…もの凄く悲しい目をして私を見つめていた。
その顔を見ていられなくて、私は家に帰った。

…家に何時着いたのかもわからないまま深夜になった。
お母さんが何か言いたそうだったけど、私の表情を見るなり何も言わないでいた。
『ゆっくり休みなさい』と言っただけだった。
自分の部屋に入って、ベッドに転がってボケッとしていた。
何の感情も無かった。とにかく、もう何もかも面倒くさかった。
覚えているのは冷の悲しそうな顔だけは、鮮明に覚えている。
冷のことはすっぱり忘れるって、自分で決めたのに無理かもしれない。だってその証拠に涙がずっと流れて止まらないから…
冷の事を諦める?そんなの無理だってわかってたんじゃないの?自分が一番わかってたはずだよ。あんなにも好きだった人をすぐに嫌いになれるわけが無い。だったら嫌われればいい。突き放せばいい、冷たく接すればいい。でも苦しいよ。切ないよ。
今すぐにでも冷の元に行きたい、抱きしめて欲しい。
でも不可能だよね。自分で突き放したし…
もう、冷とはこれで終わりかもしれない。
泣き疲れて私は眠りについた…

=次の日=
いつも通りに学校に向かって、席に着いた。
しばらくして、かな達が来ていつも通り挨拶したけど…
冷は私のほうを一度も見ないで、通り過ぎていった。その様子を見てかな達は驚いていた。ちなみにクラスメイト達も同様で、クラスはざわついた。
あぁー、自分でやったとはいえ苦しいわやっぱり。泣きそうだよ…
泣きそうになるのをグッと堪えて、かな達との会話に集中した。何かに集中すれば、それに対して気を紛らわせる事ができたから。

今日一日、冷と話すことはないし目も合わせることは無かった。
その様子は全校生徒に広まり、冷のファンクラブの人達は一日中冷にまとわりついていた。

=屋上=
今日一日中ずっと苦しかった。冷は一度も私を見なかった。話しかけることはしないけど…冷の席は私の後ろだから、プリントとか渡すときは少し困った。
でも、冷は何も言わないで受け取っただけ。
「…先生に言って席を移動させてもらおうかな…」
これじゃ私が耐えられないもん。
今日何回泣きそうになったのかな?数え切れないくらい泣きそうになってたし…
冷がさり気なく避けるけど、それが一番苦しかった。
「あ…」
「…?」
人の声が聞こえたから振り返った。その場に立っていたのは冷だった…
「先客がいたか…」
「……」
「どうしたの冷~。」
「いや、場所変えようぜ。先客がいた。」
「…もう移動するのでどうぞ。」
冷の横を通り過ぎて早足で階段を駆け下りた。
冷の隣は私だけの場所だった。でもそれももう無い。冷の隣に誰がいようと私には関係のない事。全く関係が無い…けど…
「苦しいなぁ…」
そっか。冷はもう新しい彼女作ったんだ…
私が傷つく理由は無いのに…苦しむ権利なんて無いのに…
「もう嫌だよ…意味分からない…どうすればよかったのさ。何すればよかったの?」
もう自分がコントロールできない。
もう何も考えたくない…誰か助けて…