冷に名前で話しかけるなといって、文化祭は最終日になった。今日は閉会式とかもあるから、終了時刻は14:30となっている。
「ねぇ聞いた?今日の閉会式でシークレットライブあるんだって。」
「本当?誰誰?」
「何か噂だと、2年前から姿をくらませて今何してるかわからないって言われてるあのサクラなんだって。」
「マジで?!私サクラ大好きなんだ♪なのにここ2年見なくて凄く残念だったの。」
「噂なんだけどね。」
「でも楽しみだね。」
裏方の子達の会話を、つい聞いてしまった。
シークレットライブね…好きでいてくれた子いたんだ。ちょっと嬉しいかも。
私としては少し複雑なんだけどね。
「瑠璃、交代よ。」
「なみ、わかった。今着替えてくるね。」
なみに交代を告げられて、制服に着替えた。
着替えてなみの元へ行ったら、なみが一言いった。
「屋上で冷が話しあるっていってた。行ってね?」
「…わかった。」
重い足取りで、私は屋上に向かった。正直行きたくはないんだけどね。でも行かなきゃね。逃げるような事だけはしたくない。
階段を上に上っていくに連れて足取りは重い。息苦しい、出来る事なら屋上には行きたくない。
でもそれは不可能だから諦める。扉を開けると、冷の姿が見えた。
ゆっくりと振り返る冷に、私は視線を合わせられなかった。
「やっと来たか。で?何で目線を合わせてくれないんだ?」
「昨日行った通りなんだけど。なに?理解力無いの?」
「納得できないんだけど、納得の行く理由を聞かせてくれるか?」
「昨日の通りだって言ってるでしょ?!しつこい奴は嫌い!」
これ以上冷の前にいたくなかった。言ってる事と思ってる事の反対を言うのは結構辛い。
「お前さ、自分の癖を理解して無いだろ。」
「どういう意味さ。」
「そのまんまだけど?嘘つくときは絶対に視線を合わせない。まぁ思い出したのは今朝だけどな。中学の時もそうだったけど?」
「そんな事無い!」
「じゃぁ同じ事を俺の目を見ながら言って見ろよ。」
冷は私に近づいて、身動きできないように両手で私の顔をはさむように手を突いた。
後ろは壁で、正面には冷が立っていて逃げ道は無かった。
「言えるんだろ?違うって事は。言って見ろよ。」
真剣な目で見つめてくる冷、その目を見られなくて私は視線を逸らした。
「ほらな、言えないんだろ?お前は俺に何を隠してるんだ?」
「何も隠してない。」
「いい加減にしろよ!一年以上お前を見てきたんだからわかるんだよ!何を隠してるんだよ!」
至近距離で冷は怒鳴り上げるから耳が痛かった。でも冷に言えるわけが無い。言った所で何があるのさ。何も変わらない。
「うるさい!もう彼氏でも何でもないあんたに何でそんなに言わなきゃいけないのさ!もう放っといてよ!」
冷を突き飛ばして、屋上から逃げ出した。
階段を駆け下りていく途中で立ち止まった。ぽろぽろと涙がまた溢れ出してくる。何回泣いたか本当にわからない。もう枯れたと思ったんだけどね。涙を拭っていたら、携帯が震えた。
メールが届いたみたいで、内容を確認する。
《そろそろそっちに着くから、体育館に向かってください。》
そのメールを確認した時に気付いた、今の時間は16:05。メールを返信して、体育館に向かった。その途中でなみ達に会った。
「あれ?冷と一緒じゃないの?」
「いつも一緒なわけじゃないもん。」
「でも冷に伝言頼まれたとき…って、泣いたのか?目が赤いぞ、大丈夫か?」
「ん、平気だから気にしないで。」
なみと健に心配かけないようにしないとね。無理やり笑顔を作って笑った。その時、カイが…
「あ、冷だ。」
って言ったから、私は焦った。
「じゃぁ、私急いでるから。」
走って私は体育館に向かった。かな達が何か言ってたけど、振り向かないでとにかく走った。冷の顔を見られなかった。

#体育館#
「来ましたね。これに着替えてください。」
「…何?いきなりこの学校でシークレットライブとか…人の許可も取らないで何言い出すの?」
「学校側の許可は取ってますよ?」
「私の許可は?」
「事前で♪」
「この人の首をへし折っていいですか?」
「なんてこと言うんですか?!」
「着替えてきま~す。」
受け取った衣装に着替える為に、私は部室棟の更衣室に入っていった。
この衣装着るのって、二年ぶりなんだよね…
サイズとが大丈夫なのかなとか思ったけど、何ともなくて安心した。でもそれ以上に、何でピッタリなのか気になるんですけど。
細かい事は気にしない方針でいこう。てか最近この言葉多くない?!
更衣室から出ようとしたら、騒がしくなったから出るに出られなくなった。どうしようかな…ま、静かになるまで待とう。イスに座って、静かになるまで待っていた。

数分立ってようやく静かになった。
流石にそろそろ行かなきゃやばいと思って、人が居ないことを確認して私は急いで体育館に向かった。
中はもう暗くなっていたから、私のことに気付く人はいなくて正直ホッとした。
「サクラさん、もう始めますのでここからステージに向かって歩きながら歌ってください。」
スタッフさんが急いで駆け寄ってきて、マイクを渡してくれた。戻ってくるの遅くてすみませんでした。
心の中で謝って、私はマイクを強く握った。
『さぁ、文化祭最終日各クラスの売り上げはどうでしたか?大盛況のクラスもあれば、全く人の来ないクラスもあったでしょう!そんなことはさっぱり忘れて騒ぎましょう!』
最後まで司会なの大悟君は?!楽しそうに進行していく大悟君に少しあきれた。でも、先日の事もあったけど落ち込んで無くてよかったかもしれない。
『さぁ!閉会式の前にサップラーイズ!!シークレットライブを行ないます!ゲストは絶対皆さん知ってるはず!知らない人はまずいないはず!2年前にひょっこりと居なくなってしまった人気アーティスト!サクラさんでーす!では!どうぞ!!』
どんな紹介のしかたなのさ!!ひょっこりとかいらないから!やめるって事前に伝えてる…はず?
突っ込みたい気持ちを抑えて、深呼吸して心を落ちつかせた。
懐かしいデビュー曲のイントロが流れ出す。
スポットライトが照らす道を歩きながら歌い始めた。生徒達からは歓声が上がる。

『君のくれたぬくもりは 暖かかった。 
誰も信じる事のできない私 君は話しかけてくれた。
誰も信じたくないといったのに 
君はお構い無しに付きまとってきた そんな君に引かれたの
誰も私を見てはくれなかった 誰も私を理解してくれなかった 
友達なんて いらないと思ってた
人なんて信じられないよ そう君に言ったら 怒ったよね? 
そんなこと言うなって 怒ってくれた
誰にも怒られた事はなかった 君に始めて怒られたよ 
私の噂を知ってるのに 君は言った
お前はお前だ 他人の評価なんて俺は聞き入れない 
その一言で十分だった 私は嬉しかった。

君に出会ってから私は楽しかった 毎日君との会話が楽しみだった 
色褪せていた日常が 色付いて見えた  
君のおかげだよ ありがとう
素直に伝える事はできないけど いつか君に直接言うよ 
そのときまでは 言わない…』

ステージに上がって、一礼する。丁度曲が終わる頃にステージに上がれてよかった。
音楽が止まると、沈黙になる体育館。暫く静かで二曲目の音楽が流れた。次の曲は結構テンポがいい曲で、個人的に好きなんだよね。
『君が隣に居るだけ それだけなのに心が苦しいよ。 
君の視線の先に居るのは 私じゃないから
君とずっと一緒にいたのに 私を妹のようにしか見てなかった 
悔しかった…苦しかった!
いつになれば君の視界に入る事ができるの?  答えてよ!!
君のことがずっと好きでした! 
君以外の人は好きになれなかった! 他の誰でもない君だけを!
どんなに月日が流れても 君以外好きになれなかった! 
でも君は違うんでしょ?
幼馴染にしか見てはいないんでしょ? そんなのはもう嫌なの! もっとちゃんと見てよ!
幼馴染としてしか見てくれないなら 私はもう嫌だから… 
もう優しくしないでいいから
今すぐにさよならするよ ありがとう 大好きで大嫌いでした!』
歌うのは二曲だけだから、これで終了。
イントロが流れて、音楽は終った。沈黙の続く空気に耐えられない。
もう逃げちゃおっかなぁ~とか考えていたら、大きな歓声があがった。
大きな声で、全校生徒から「「アンコール!アンコール!」」と叫ばれた。それが凄く嬉しくて涙が流れた。
『ありがとうございます。えと…アンコールといわれましても音源が…』
そう、アンコールを頼まれたとしても音源がもう無い。実際アンコールなんて求められると思ってなかったから。どうしよう…舞台袖にいるスタッフを見ても、腕をバツにしてるし…これで歌うとしたらアカペラしかない…
「困ってるなら、私達が助けるわ。」
いきなり聞こえた声に、びっくりした。声の聞こえた方を向くと、見覚えのあるメンバーがそこにたっていた。
「なっ…」
「久しぶりだな、サクラ…」
「あんまり変わってないないと思ったら、髪が短くて一瞬わからなかったわ。」
「そりゃ、2年も会ってなきゃわかりませんよ。お久しぶりです。」
「歌唱力で、何とかわかったようなもんだしな。」
舞台上に現れたのは、四人組だ。しかも、もう二度と会いたくないと思ってた奴等だ。
「あら、久しぶりの再会なのに何にも言わないの?」
「随分と冷たい子ですね…」
「誰がさ!何でここにいるの!」
「愚問ですね、社長に呼ばれたからですよ。」
「っ……」
こいつらの助けなんて要らない。こんな最低な奴等と一緒になんて歌いたくない!
グッと拳を握って睨みあってると、生徒達はざわついて来た。