「いらっしゃーい!和風喫茶へようこそー!」
「六名ですね、こちらへどうぞー。六名様ご案内!」
和風という割には明るいし、和風よりも縁日の方が空気的にもぴったりな気がする。
案内された席に座り一人ひとり注文して、のんびりしていたら注文していた品が運ばれた。運ばれてもお腹が限界なのか、冷はテーブルにうつ伏せのまま。
運んでいる給仕係りは大悟君だったから少し驚いた。
「はい♪おまちどう様~。」
「大悟君、給仕係りだったんだね。」
「いらっしゃい瑠璃♪」
大悟君といった瞬間、冷は起き上がった。起き上がって冷は大悟君を睨んでるような気がする。気のせいなのかな?
かな達はなんか笑い堪えてるし…何か仲間外れにされてる気分で、少し寂しい気がする。
「いいからさっさと仕事しやがれ。」
「へいへいっと。」
一品ずつ置かれる料理。凄く美味しそう。
「ごゆっくり~☆」
のんびりと食べて、かな達とゆっくりと文化祭を楽しんだ。夕方時には一日目は終了。無事に何事も無く終える事ができた。
かな達はやる事があるといって、何処かに行った。冷は、今いろんな子達に告白されてる。だから今一人で屋上にいる。
ボケッとしてるだけなんだけどね。
何も無いけど空を見上げているだけ。そうすれば少しは落ち着くもんね。
何にも考えないでボケッとすることが好きなんだよね。どうしてかは考えた事はないけど。気がつけばいつもこんなことしていたし。まぁ、気にしない方面でいきましょう。
「瑠~璃♪何してんだ?」
「大悟君。どうしたの?」
「俺の仕事は終ったから、何となく屋上に来ただけだよ。瑠璃は?」
「何となくここに居たくて居るだけだよ。」
「そうなのか?まぁいいけど。」
そう言いつつ、大悟君は隣に立った。
ボケッとしたまま数分が過ぎた。
「なぁ瑠璃、俺が瑠璃を好きって言ったらどうする?」
「はぁ?!いきなりなに言い出すの?!」
「いいからいいいから、どうする?」
「そうだとしても、私は友達としてしか見てないとしか言わないよ。」
友達としてしか見たことは無いからね。
でもいきなりどうしたんだろう?
「友達か、まぁそうだろうとは思ったけどね。」
「いきなりなんなの?」
「いや、瑠璃が俺をどう思ってるのかはしっかりとわかった。じゃな。」
「うん…」
そう言って大悟君は屋上から出て行った。一体なんだったんだろう?でも今、何か大悟君の表情が曇ってるように見えたのは気のせいなのかな?

=大悟サイド=
友達か…薄々わかってたことなんだけど、結構傷つくな…
瑠璃はきっと俺がずっと好きでいたのは、ちっとも気付かなかったんだろうな。自分がどれだけ人気あるのかすら気付きもしないくらい鈍感だし。つーか、自分が告白されてるってこと事態気付いてなかったもんな。
『俺と付き合ってさい!』
『どこにですか?』
あれは笑ったな。相手が哀れだったし。
悪気も無く、素で言ってる瑠璃も笑えた。
そのことが広まって、瑠璃に告白する男は居なくなった。冷と付き合い始めても、瑠璃の人気はあったけどな。
…これって失恋ていうんだろうな。一般的には。自分から告白なんてした事はなかった。それ以前に、俺が誰かを好きになったことは無かったから、自覚したのは最近なんだけどね。でも失恋か…結構苦しくなるもんだな。
「初めての経験だなこれ…」
階段を下りてる途中で涙が出てきた。
「ありゃりゃ、今になって出てきたか。」
止まらねぇや。どうすっか、これじゃここから動けねぇじゃねぇか。
階段に座り込んで、片手で顔を隠した。
それでも涙は止まらなかった。
「大悟君?具合でも悪いの?大丈夫?」
「この声はかなか?」
顔を隠したまま聞いた。
「そうだけど、どうして顔隠してるのよ。」
「ちょっとな。」
かなで正解だったみたいで少し落ち着いた。
「ふーん、まぁ大悟君が何してても気にかける必要はないと思うけれど…泣くんだったら泣けばいいじゃない。隠してる方がかっこ悪いわよ。」
そう言ってかなはその場から居なくなった。
その言葉を聞いて俺は歩いていくかなの後姿を指の隙間から目で追った。顔隠してるだけなのに、何で泣いてるとわかったのかが不思議だった。
『泣くんだったら泣けばいいじゃない。隠してる方がかっこ悪いわよ。』
泣いてるやつに言うかよ普通…本当に何考えてるかわからない奴だな。そう思って俺は少し笑った。でもやっぱり、泣き止む事はできなかった。
「…っ……っく…」
声を押し殺しながら俺はその場で泣いた。
「こっち来なさいよ。」
「なっ…なんでここに…」
「ここで泣いてると迷惑じゃないの。あっちに人のいない教室があったわ。そこに行きましょ。」
かなは俺の腕を引っ張って、空き教室に連れ込んだ。いきなりだったから何でこんな事になってるか理解できなかったけど、正直有難かった。
「ほら、ここで泣きなさいよ。私しかいないんだから。」
「なんだよ~、慰めてくれないのか?」
「私が慰めるって決めてるのはるーちゃんだけよ。甘ったれないで。」
すっぱりと断られたし。何?俺って結構女運悪い?俺惨めじゃ…
「俺カッコ悪~…」
「そうね。かっこ悪いわね。」
「俺のプライドは粉々に砕けた…」
その場にしゃがみ込んで、俺はまた泣いた。
「プライドなんてくだらないもの捨てなさいよ。すぐに砕けるなら、所詮それだけのものだっただけでしょ?すっぱり捨てて新しく探したら?」
「俺にトドメでも刺しに来たのかよお前は。」
「別に、たまたま通りかかっただけよ。」
かなは机の上に座って、ジュースを飲んでいた。
「泣くんでしょ?泣きなさいよ。誰にも言わないから。」
「女の前で泣きたくは無いっての…」
「すっきりするわよ。意地張らずに泣きなさい。」
きついっての言葉が、そう思いつつ俺は泣いた。みっともないと思ったけど、泣いた。外で泣いたのは久しぶりだ。つか何年ぶりだろうな。
かなは無言のまま俺を見ていただけで、何も言いはしなかった。
―数分後―
「あぁ~、すっきりした。」
鼻を啜りながら俺は立ち上がった。
「文化祭初日に失恋とか…w」
「何笑ってんだよかな…」
「いいえ別に。もう帰らなきゃ、じゃぁね。」
ひらひらと手を振って、かなは歩き出した。俺は後ろからかなの腕を掴んだ。
「なにかしら?」
「いや、俺のせいでこんな時間になったんだし送るよ。」
「あら、下僕…じゃなかった。カイが居るから平気よ?」
今下僕って言わなかったか?!カイ…そんな事言われて来たのか?
「そうか。」
「冗談よ、カイは先に帰ったわ。お願いするわよ。行きましょ。」
笑いながらかなはそう言った。不意にも俺はそのかなの笑顔にときめいた。俺さっきまで瑠璃が好きだったのにな、別のやつ好きになんの早いだろ俺のバカ!!
「何さっきから一人百面相してるのよ気持ち悪い。帰るわよ。」
「気持ち悪いって…」
クスクスと笑うかなは、瑠璃とは違う意味で可愛かった。そう思ってたら、かなの携帯が鳴った。
「あらカイだわ。ちょっと待ってて。」
「あぁ。」
かなは教室から出て、カイと何か話していた。
「大丈夫だから心配しないで頂戴。じゃぁね。」
「なんだ?」
「いえ、気にしないで頂戴。」
そう言って、俺の腕をひっぱって歩き出した。気にするなといわれたから気にしないで置こう。


「それじゃ、家はここだから。ありがとうね。」
「あぁ、こっちも助かったよ。サンキュー。」
「それじゃぁ、また明日ね。」
「おう、おやすみ。」
かなが家の中に入って言ったから俺は、来た道を引き返して家に帰った。