「ん…」
寝起きでぼやける目を擦って、ぐっと伸びる。
そう言えば、叔父様の家に泊まらせて貰ったんだっけ…
布団から起き上がって、隣を見る。
まだ寝てる冷、そう言えば冷も泊まってたんだっけ。
まさか、ここまで来るなんて思わなかったけどね。まぁいっか。
部屋から出て、洗面所で顔を洗いに行く。その途中で、叔父様とすれ違った。
「おはようございます、叔父様。」
「おう、おはよう瑠璃。よく眠れたか?」
「はい。久しぶりにぐっすりと眠れました。」
「それは良かった、学校に行くんだろう?途中まで送るからな。」
「ありがとうございます。」
「あと、30分で朝飯だ。小僧にも言っておけ。」
「わかりました。では、また後で。」
「おう!」
叔父様と別れて、洗面所で顔を洗う。
部屋に戻る前に、飲み物を貰ってこよ。のど渇いちゃったし。

―台所―
「お嬢!おはようございやす!」
「おはよう。飲み物貰ってもいい?」
「何にいたしやしょう?」
「麦茶でいいよ。」
コップに注がれた麦茶を受け取って、部屋に戻る。

―自室―
着替えなきゃね。制服に…
冷はまだ寝てるし…のん気すぎるよ;冷の側にしゃがんで、コップの中に入っていた氷を一つ取って冷の首に乗せる。
「つめてぇ!!」
「おはよ、冷。」
「おぉ、おはよう…じゃなくて!何しやがる!」
「のん気に寝てるのが悪い。もうすぐ朝食の時間だから着替えて。」
「お~、サンキュ。」
制服を持って、隣の部屋で着替える。
二人とも着替え終わって、朝食を食べて学校へと向かう。
叔父様が学校まで送ってくれるみたいだけど、騒ぎになってほしくなくて一度断ったけど…
「たまには叔父らしい事させてくれないのか?」とか言って、しゃがみ込んでいじけ始めるので諦めた。

―学校前―
「それでは叔父様、また何かありましたら連絡ください。」
「おう!たまには遊びに来いよ?」
「善処します。それではありがとうございました。」
車から降りて、中に入ろうとした。
あれ?冷がいない。隣にいると思ったらいなかった。まだ乗ってるのかなと思ったら叔父様と何か話してる。
何の話してるかわからないけど、叔父様の顔がなんだか厳つい。大丈夫かな?
「冷!予鈴なるよ!」
「悪い瑠璃!先に行っててくれ!後から行く!」
「わかった。」
叔父様と何の話してるのかわからないけど、まぁ冷なら大丈夫でしょ。
特に気にかけないようにして、教室に向かった。

教室前まで来たけど、なんとなく入りにくい。
昨日の事もあるし、入った瞬間にクラスメイトの視線も気になる。またあの冷たい視線を向けられるのかもしれないし…怖くて入りたくない。
扉に手をかけようとしても、震えて上手く動かない。
「瑠璃、大丈夫か?」
入りたくても入れなくて、どうしようかと思ってたら冷が来た。
今思えば、冷とクラス違ったはず…
でもいつの間にかうちのクラスにいるんだよね…なんでだろ?
「ねぇ冷、確か冷ってクラス隣だよね?」
「あ~、お前のイジメが職員室で問題になってた。それで、俺がお前のクラスに移動になっただけだ。それだけ。」
「いつの間に?!」
「お前がサボって空とか言うやつに会った時だよ。」
空の名前を言ったとき、何でかムスってした。不機嫌になっちゃったよ;
「それより早く中に入るぞ。遅刻になる。」
「うん、わかってるんだけど…手が震えちゃって…」
いまだに震える手を何とか止めようと思ったけど無理だった。嫌な記憶が甦って来る。小学校の時記憶が…騒がしかった教室内が、私が入った瞬間にビシッと固まるような感じ。あれが嫌い。聞きたくない。それで前に進めない。
「大丈夫だ。俺がいる。」
「ん…」
冷が右手で私の左手を握って、左手でドアを開けた。

中に入ると、真っ先に来たのはかな達だった。
「るーちゃん!」
「かな…」
「良かった。もう来ないかと思った…」
抱きついて、泣きながら話すかな。
「だから言っただろ?冷が連れてくるって。」
いつものように笑うカイ。
「昨日はあんなに黒かったのにな…;」
少し苦笑いの健。
「ね、怖かった。」
健の隣に立つなみ。
「……」
「瑠璃?」
何を話せばいいのか分からない。ここにいていいのかすら分からなくなってきた。
「るーちゃん。」
かなは私から離れて、言った。
「おはよう!」
笑顔で言ってくれて、少し安心した。
「おはよう、かな。ありがとう…」
安心したら涙が出てきた。
「泣くなっての。」
カイが慰めようとして、手を伸ばしたら冷に手を叩かれたカイ。
「何すんだよ冷。」
「瑠璃に触るな。」
「クールキャラ発動かよ!」
「発動じゃねぇっての。」
ギャーギャー騒がしい冷とカイを、放っといて席に着こうとした。
何となく安心する場所がまだあってすこし楽になった。
「瑠璃、あの…」
「なに…」
「ごめんなさい、また瑠璃を傷つけて…」
「別にいい。もう慣れてるから。」
「あのっ…「無理に話そうとしてくれなくていい。」瑠璃…」
「仲良かった時と同じように接してくれればいいよなみ。」
「瑠璃ぃ~…ありがとう!」
目に涙を溜めて、なみは抱きついてきた。
もちろん、その行動に健は黙ってるはずもなく…
「俺のなみに何をする!なみを返せ!」
「だまらっしゃい?」
「NOOOOO!」
「うるさい。」
いつものやり取りが始まる。
今まであった溝が埋まる感じがした。
「あの、杉原。」
「何?」
「昨日はごめんその…もし自分の立場だったら耐え切れないってわかったんだ。」
「そう、それよりさ。そのあざとかどうしたの?」
「えっと…;」
だいたい想像はつくけどね。
かな達がやったんだと思う。前にも一度会ったし。気にしない方がいいかもしれない。
「かな達がやったんでしょ?」
「まぁ。」
「だと思った。他にもやられた奴等いるでしょ。一週間程度で消えると思うから。消えるまで我慢していた方がいいよ。」
「消えてからも、瑠璃に何かするんだったら…」
「昨日以上の拷問してあげるわ。覚悟しておきなさい?」
「かな、カイいい加減にしなさい?」
「「はい。」」
これ以上何も起こして欲しくない。
その後、クラスメイト達は何人か謝ってきた。クラスで嫌われる前の雰囲気になった。
なんだか、数ヶ月前の事なのに懐かしく思えた。

#放課後#
「なんだかなぁ…」
何であんなに灰色に見えたんだろう…
今教室で一人でいる。皆部活だったりバイトで帰ったりしたから。
かなやカイは、家の人に買い物を頼まれて先に帰った。健は部活に、なみは委員会。
冷は、鞄を置いて何処かに行った。
私は、なんだか帰る気にもなれなくて机に座って窓の外を眺めていた。
グラウンドでは野球部にサッカー部、陸上部と部活動をしている。合唱部の歌声に、吹奏楽部の楽器の演奏…色々と聞こえる。
夕焼けが綺麗に見えるのは何日ぶりなんだろう?
ここ最近、ほとんど色なんて感じなかったからね。それ以前の問題かも。自分自身で何もかも閉ざしてたんだからね。当たり前かもしれない。
夕焼けのオレンジ色の光が、教室に差し込む。夕焼け色に教室は色付く…
「…私は、何がしたかったのかな…?今まであんなに人を傷付けて来て…苦しめて…私って疫病神みたい。いないほうがいいのかもしれないね…」
誰もいないから独り言のよう。
空っぽの心だなぁ…
何にも中には入っていなくて。
空っぽの心・空っぽの自分・感情がない…
一人でいたときを振り返ってみると、感情とか全体的に中学に戻っていたみたい。
「…もう5時か…帰る気力ないなぁ…」
鞄から音楽プレイヤーを取り出して、音楽を聴く。
中学の時になんとなく自分で作った曲が流れる。作曲とか演奏とかも自分でやったんだよね。何となく自分としてはいい感じに出来たから、入れたけど…思い返してみれば少し声裏返ってるかも。今の方が、上手く歌えるかも…
イヤホンから流れる音にあわせて、歌いだしてみた。
「…一人だからって何も思っていないわけじゃない。
苦しい時だってある 悲しい時だってある あんたに何がわかるの? 自分の事じゃないでしょ 放っといて 近寄らないで 
関わろうとしないで これ以上苦しみたくないの 
一人でいさせてよ 暗闇の中に 一人でいる 
助けてくれる人なんて そんなのいるはずない 誰も分かりはしない 私の中に入ってこないで この苦しみ どうしたらいいの? 
どこに吐き出せばいいの? 空に叫べば言い? 
そうしたら少しは楽になる? 試してみればいいよね 
だから私は叫ぶ 空に向かって 大きな声で 
誰か私の気持ちをわかってよ! 叫んでもあまり変わらない 
こんな日常いらない 誰か壊してよ 貴方に出会って 
何もかも変わった バカみたいな貴方 それでも変わるならって 
そう思った 何でだろうね…」
この先あんまり覚えてないんだよね;
めちゃくちゃに書いて歌っただけだもん。何がしたかったんだろう。
《貴方に出会って 私は少し変われた ありがとう》
あぁ、そうだった。これって冷と会ってからの曲だ.
女ったらしだったもんね。今じゃ全く想像つかないけどw
曲が終わったみたいで、別の音楽が流れ始めた。ほとんど英語の曲なんだよな。テンポよければ何でも良かったし。好きなアーティストとかいないし。
外はもう真っ暗。時間は6時。秋だし暗いのは当たり前か。そろそろ帰らないとね。
「あれ…まだいたのか?」
「冷…冷こそまだ帰ってなかったの?」
「屋上にいた、その後担任に捕まってさ。」
「ふーん…」
「どうかしたのか?」
「私さ、皆の疫病神みたいだなって思ってた。」
「は?」
「皆を傷付けてばっかりで、苦しめて…私って何なんだろうって思ってた。自分のせいで皆を振り回して。巻き込んで…いなきゃ良かったって思った。中学で荒れてたのって何だったんだろうって思うときもあるの。何であんなに人が嫌いだったんだろうって…冷と会った日ね?死のうとしてた。」
「なっ…」
「手首と首の頚動脈を切ってね。冷が来たから止めたけど、何回も死のうとしてた。でもその時になると、必ず冷が来るの。うっとうしかった。冷自体が。」
「酷いなぁ。」
「あの時は本当にそう思ってたんだもん。でもさ、今になると感謝してる。」
机から降りて、ゆっくりと冷の方へ歩く。
「なんでだ?」
「あのまま冷と会わなかったら、私はここにはいないもん。本気で死にたかった。もう生きていたくなかったの。でも、冷がいつも来たからね。冷にいつの間にか救われてたよ。」
冷の前に立って、冷の顔を見ながら話す。
教室が暗くてよく見えないけど、多分顔は赤いかもしれない。
「それってどういう…っ?!」
冷の言葉を遮って、自分から冷にキスした。
「今の行動の通りだよ。」
「うぇ?!あのっ…瑠璃?!」
「いつ間にか、冷が好きになってたみたいだし。隠すのがどれだけ苦労したと思ってるの?」
「俺の責任か?!」
「そうでしょ?」
教室内暗くてよかったかもしれない。
今になって我に変えるとすごく恥ずかしい!!///どうしよう///
鞄を持って、さぁ逃走準備完了!
「じゃ、ばいばーい!」
「逃げた?!」
逃げるに決まってるじゃん。恥ずかしいんだから!自分のせいだけど。
昇降口に全力疾走して、靴を履き替える。
あ、なみだ。今委員会終ったんだ。
お疲れさんですね~。
「あ、瑠璃。まだ残ってたの?」
「うん、なみもお疲れ様。冷が来たら、まだ校内にいるって言っといて!じゃ!」
「瑠璃?!」
これでOK!なみは味方だもんね!…多分…