教室から出て、校門へ行ったときに丁度叔父様が乗り込む瞬間だった。
「叔父様、一緒に乗ってもいいですか?」
「おぉ瑠璃、学校終ってからじゃなかったのか?」
「早退しました。」
「いいのか?別に終わってからでも…」
「いいんです。あのまま教室にいたくはなかったんで…」
「そうか…まぁ、深く理由を聞くのはやめておくかの。ほれ、乗れ。」
「はい。」
叔父様の車に乗り込んで、叔父様の屋敷へ行く事になった。

=叔父様の家=
「「「お帰りなさいませ御頭!お嬢!」」」
「堅苦しいのう。止めろといつも言ってるだろうが。」
「そういうわけにはいきません、御頭。」
「私もお嬢って器じゃ…」
「御頭の姪っ子様はお嬢です!」
「しばくぞこのやろう…」
この空気が嫌い。
「瑠璃はやはり、聡兄さんの娘だな。同じ事いっとる。」
楽しそうに笑う叔父様。
叔父様とお父さんは、性格は正反対でも仲良しだったみたい。
叔父様に会う前は、お父さんがよく言っていた。
《お父さんにはな?弟がいるんだ。正反対の性格でも仲良しだったんだぞ?弟はいつも笑う時大きく口を開けて笑うんだ。それが癖なんだよ。でもその笑い声を聞くと、つい自分も笑うんだけどな。》
お父さんの言うとおり、笑う時はいつも大きく口を開けて笑う。
笑い出すと、他の皆も釣られて笑う。何だかのほほんとしてる組なんだよね;
「瑠璃、中に入って茶菓子でも食おうか。」
「はい!」
叔父様のくれるお茶菓子は、凄くおいしいんだ。有名なお店とかじゃないし、高級店とかのでもない普通のお店のお茶菓子。
それなのに、どんなお菓子よりも美味しく感じるのはいまだにわかんない。

「美味しいか?瑠璃。」
「はい!」
和服に着替えて、一緒に食べる。これがいつもの事。
「ところで瑠璃。聞きたいことがあるんだが。」
「なんでしょうか?」
「お主、一体学校でなにがあった?」
「特に何もありませんが…」
「嘘をつくでない。わしに嘘は通じぬと理解しておるだろ。誤魔化さず、すべて言いなさい。」
叔父様の真剣な目は、少し苦手。何もかも見透かされそうで、怖いから。
ここで話していいのかな?少しは楽になる?これ以上人に頼って、迷惑かけてもいいの?
「瑠璃、自分の中に溜め込むのはいいことではないぞ。迷惑かけるだの何だの思う前に、人を信じろ。わしがヤクザだからといっても、瑠璃の学校に何かするわけではない。わしは瑠璃の話しを聞くだけだ。それ以上のことは何もせん。」
叔父様はそう言って、私の頭にポンッと手を置いて笑った。
その笑顔を見たときに、私はお父さんとお母さんの言葉を思い出した。
《辛い事があったら、信じている人に全て打ち明けなさい?》
《何でもかんでも、一人で抱えるのは良くないからな?》
どうしてその言葉を忘れてたんだろう?お父さんがずっと言い続けてきた言葉だったのに…大好きなお父さんが言っていた事なのに…
《そうすればいつか現れるからな。瑠璃の全てを見てくれる人が。》
お父さんはいつも最後にはその言葉を言っていた。最初意味分からなかった。そんな人いるわけないって。
でも…中学の時点で自分で分かってたじゃん。現れてるって…
「叔父様…どうしよう…私、大切な人を失っちゃいました…自分で突き放しちゃいました…どうしよう…」
「話がまったく噛み合ってないが、まぁよいか。何があったんだ?」
「私、付き合ってた人がいるんです。冷って名前なんですけど。でもその人、学校で人気あってその人のファンみたいな人に よく嫌がらせされてたんです。でも気にしない方できていたんですけど…小学校の時に引っ越した幼馴染が帰ってきたんです。」
「飛来の双子か?」
「はい、その日は風邪で冷は休んでて…次の日にいつも一緒に登校してるので、朝一緒にいたんです。そうしたらカイが後ろから抱きついてきて…冷がお前誰だよって言って、カイが彼氏だけど?って…」
「おいおい…;」
「それで、冗談だって分かったんですけど誤解されちゃって…別れちゃったんです。てゆうか振られちゃいました。それから色々ありまして……―――」

全てを叔父様に打ち明けた。なんだか少しでもすっきりしたくて。叔父様は何も言わないで、話しを聞いてくれた。途中で何だかどす黒い気配も感じたけど…;

「…て感じになってました。」
「そうか…頑張ったな。瑠璃。」
「そうですね。でも…突き放しちゃいました。」
「瑠璃は、その冷という男をまだ好いているのか?」
「自覚したのはついさっきですけど…」
「ならば、正直に話すことを進めるぞ。後悔はしないほうがよい。わしみたいに、今も後悔するぞ。」
そう話す叔父様は、何だか悲しそうだった。叔父様は今は結婚されてるけれど、叔母様と上手くいってないのかな?
叔母様は叔父様みたいに怖くないけれど、同じ組長さんの一人娘って聞いた事ある。
「叔父様、何かをまだ後悔されてるんですか?」
「あぁ、聡兄さんはしらないがな…」
「そうなんですか?」
「瑠璃の母親だ。」
「え?」
「瑠璃の母親に一目惚れしたんだ。聡兄さんと婚約期間で、わしには一ミリも入る隙はなかったんだ。でもな、瑠璃の母親は昔も美人でなぁよく狙われてたもんだ。」
以外だった。お母さんだったなんて…
「そのときからもう瑠璃の母親は、聡兄さんにべた惚れで両方とも好きあっていた。なら潔くあきらめようとした。婚約期間だとしても、親父は認めなかった。婚約も、聡兄さんが押し切ったからな。結婚する時は家を飛び出して…」
「そうだったんですか…」
「影からなら、わしは二人を守れる。そう思って、少しずつ瑠璃と聡兄さんに瑠璃の母親…三人を見守ってきたんだ。」
「…やっぱり叔父様でしたか。何だかいつも人の気配がするなって思ってたんです。でもお父さんも知ってたと思いますよ。」
「流石わしの兄さんだ。」
今分かったかもしれない。叔父様が何でお母さんを名前で言わないのか。それはきっと、叔父様なりの決意なのかもしれない。
今まで見守り続けてくれた叔父様。
それを恩返しするのは私の役目かな…
「叔父様。」
「何だ?」
「守り続けてくださり、ありがとうございます。」
「あぁ、本当に大きくなったな。」
「叔父様の言うとおり、後悔はしない人生を生きていきます。」
「わかった。」
優しい目でいつも見てくれていた。そんな叔父様は私は好き。叔父様の優しい目はいつもお父さんを思い出させてくれる。兄弟だもんね。そっくり。