瑠璃が教室から出て行って、俺は廊下を歩いていく瑠璃に叫んだ。
「本当に辞めんのかよ!瑠璃!!」
でも俺の声には振り返りもしなかったんだ。
教室内は少し騒がしかった。
「冷、大丈夫か?」
「いや、ちょっとショックだな。あんなに頑張ってんだけど…」
「るーちゃん成績壊滅的だったからここまで来たのに。」
たしかになぁ…
「ヤクザとかさー…」
「ね、騙されてた気分だよねぇ。」
その言葉に腹が立った。
「騙されていただって?ふざけた事抜かしてんじゃねぇよ!あいついつも笑ってただろ?!自分がヤクザだって一度でも言った事あるか?!一度も無いだろ?!それでもお前ら瑠璃のクラスメイトなのかよ!」
「カイ…」
今俺が言おうとしていた言葉をカイが先に言った。
ガンッと机を蹴り飛ばして、カイはクラスメイトに思いっきり怒鳴った。
「瑠璃が今まで自分を優先にしてきたか?!自分がいじめられても何もしなかったじゃねぇかよ!俺たちを騙してたんだったら今頃さっきのヤクザ達に言ってんじゃねぇのかよ!言わなかったって事は、俺らを騙したくないけどあれ以上嫌われたくないからじゃないのか?!自分の立場ならどうなるか考えてみろよ!」
「そうよ!るーちゃんはねぇ!自分を優先にしないで他の人を優先にするのよ!自分がどんなに苦しんでいても他の人を優先にする優しい子なのよ?!そんなるーちゃんを侮辱するなんて許さないわ!!」
カイもかなも、目に涙を溜めて怒鳴っていた。
でも俺は何も出来ない…無力だった…
さっき出て行ったときに腕を掴めば良かった。そうしたら何か変わったかもしれない。拒否されるかも知れないけれど、少しは変わったかもしれない。
「でもさー、どうせ自分で辞めるって言ってんだからいいじゃん。」
「そうだよ、別に一人くらいいなくなってもあまり変わんない。」
「…ざけんなよ…」
「冷様?」
一人くらいいなくなっても変わらない?
あいつがどんだけ頑張ったかも知らねぇのにそんな事いうのかよ…
俺の中の何かが切れた。
「ふざけた事抜かしてんじゃねぇよ!」
「おいっ!冷?!」
「あいつがどれだけ苦労して勉強したわかんのか?!あいつがどれ程努力したのか知ってる奴はいんのかよ!!成績最低ランクの奴がここまで来たんだぞ!それなのに辞めるって事は相当の覚悟が必要なんだよ!お前等にわかるのかよ!自分の父親を受験期間の重要な時に亡くしてるんだぞ!あいつはなぁ!!自分の父親を亡くしてから暫く何も飲まず食わずで勉強してきたんだ!お前等にそんな事真似出来んのか?!受験校だってもっと下だったんだ!なのに母親を楽させる為に奨学金のある公立高校を選んだんだ!それでこの高校に来たんだよ!願書出してから寝る間も惜しんでまで勉強してきたんだ!そこまでの努力を今のお前等の言葉で崩されたんだよ!これ以上瑠璃に対して何か言ってみろ!俺がぶっ飛ばしてやる!!」
せっかく自分で来られるようになってきたのに、今度は辞めんのかよ。
何でこんなにも嫌な事が降り注ぐんだよ!
瑠璃はもう十分に苦しんでんだから、これ以上何も起きてほしくはなかった。それすらも叶わないのかよ…
何の為に俺はいるんだよ…瑠璃を笑わせたいだけなのに…
無力な自分が憎かった、何も出来なくて俺の手からまた瑠璃はすり抜けていった。
「カイ、瑠璃の叔父の家って何所にあるか分かるか?」
「あぁ、まぁ一応わかっけど行く気か?」
「行くに決まってんだろ?追い返されようが何されようが、瑠璃の気持ち聞かない限り俺は引く気はない。」
かっこつけてるようにしか思えないけどな。
今の俺に出来る事はそれしかない。ならそれを実行するしかない。
「分かった。今書くから待ってろ。」
「サンキュー。」
カイはノートを破って、行き方を書いてくれた。
授業時間だけど、教師は何も言わなかった。
あっと、他にもあったや。
「先生、転校届けください。ついでにもって行きます。」
「あっ…あぁ分かった。今もって来る。」
放心状態の先生に、俺は言って届出を持ってきてもらえるよう頼んだ。
転校届けを持っていくといった俺に、かなは突っ掛かってきた。
「ちょっと冷!本当にるーちゃんに渡すの?!止めないの?!」
「止めるって。」
「ならなんで持っていく必要があるの?!」
「考えがあるからだよ。大丈夫、辞めさせたりはしないから。」
「ならいいけど…」
「冷、書いたぜ。忠告は一つ。」
「なんだよ忠告って…」
「睨まれたら怯む事無く睨み返せ、そうしないと中に入れないからな?」
「マジかよ;;」
「そーゆー事だから。ま、いきゃぁ分かるさ。」
笑いながら俺の肩を叩くカイ。
笑い事じゃないだろ、もの凄く不安なんだけど…
「鈴木、これよろしくな。」
「了解、んじゃ俺は今から行くんでよろしく♪」
鞄を持って、俺は学校から出た。
走りながら俺は駅に向かった。
カイから貰ったメモによると、この町の駅から三つ目だった。結構近いな。
辞めるとかふざけんなよ瑠璃。
母親を楽させる為に入ったんだろ?途中で辞めるとか絶対にゆるさねぇかんな…