こそこそと話してるクラスメイトの会話が少し聞こえた。
「ヤクザだって…」
「信じられないよね…」
好きでヤクザとかの家系に生まれたわけじゃないのに、何でそんな事言われなきゃいけないのさ…
ヤクザって言ってもそんなに悪い事してないのに、悪さだってしてないのに…
叔父様は優しい上に、組にいる人たちも優しいのに。
「ヤクザの娘が来てんじゃねぇよ。」
その言葉が胸に突き刺さって、苦しかった。
小学校の頃にもあったんだよね。
お父さんとお母さんが結婚記念日に旅行に行くからといって、叔父様の家に止まりに行った時。
叔父様の家からは学校が遠くて、車で送ってもらった。車から降りた時、たまたまクラスの男子にぶつかっちゃったんだ。

#過去#
「痛っ…ごめんなさい。」
「いや、平気。大丈夫か?俺こそごめんな。」
「ううん、私が前見てなかったんだから悪いのは私だよ。荷物拾うの手伝うね。」
手さげ袋に入っていた荷物を二人で拾っていたときに、私は気付いた。
あれ?私今日絵の具もって来たよね?
持ってるはずの絵の具が無くて、少し焦っていた。
「はい、これで全部かな?」
「あぁ、サンキュー。」
「じゃ、また教室でね。」
「おう!」
荷物を全部拾い終えて、クラスの男子といったん別れた。
叔父様の車はまだ止まっていたから、車の中にいる叔父様に聞いた。
「叔父様、私の絵の具セット知りませんか?」
「絵の具?これの事か?」
ひょいっと持ち上げて見せてくれたのは、ピンクの入れ物。私の絵の具セットだ。
「それそれ、ありがとう叔父様。」
叔父様から絵の具を受け取って、私は教室に向かった。

「おはよー。」
いつものように教室に入るなり、挨拶をする。これが私がいつもやってる行為だったし、皆も返してくれた。
でも、今日は違ったんだ…
ひそひそと話していて、誰も目を合わせてくれなかった。
「ひーちゃんおはよ。」
「近寄んないでよ。」
「えっ…なんで?」
「瑠璃、ヤクザなんでしょ?」
「違うよ!私はヤクザじゃない!」
「嘘吐き!だって私見たもん!瑠璃が怖いおじさんの車から降りてくるの!」
「あれは私の叔父だよ!」
「そのおじさんはヤクザじゃないの?!」
「それはそうだけど、私はヤクザじゃないもん!」
「叔父さんがヤクザって事はその血を引いてるんじゃん!」
「ヤクザなんか学校にくんじゃねぇよ!帰れ!」
クラスメイト達からの、罵声に耐えられなかった。
確かにお父さんが跡継ぎだったし、お爺様のご先祖様からの家系だった。
古くからの家系なんだもん。私のせいじゃないのに何でこんな事にならなきゃいけないの?
私が悪いんじゃないのに…
「帰れってのが聞こえないのかよ!!」
何度言っても動かなかった私に痺れを切らしたのか、一人の男子が怒った。
その男子はハサミを持って、私に投げつけた。
無意識に私はそのハサミをつかんだ。
もしかしたらそれが、あと二年の小学校生活を壊す引き金だったのかもしれない…
ハサミをつかんで、睨んだ時に担任が入ってきた。
「先生瑠璃ちゃんがハサミを投げようとしてきました!」
「投げたのは男子でしょ?!」
「杉原さん、職員室に来なさい。」
「私じゃない!」
「いいから来なさい。」
先生は話しを聞かないで、私の腕をつかんで職員室に連れて行った。

=職員室=
「ハサミをどうして投げようとしたの?」
「だから!私じゃないです!男子が投げてきたんです!私はそれを取っただけ!」
「証拠なんか無いでしょ、皆に謝りなさい。」
「嫌です!私はやろうとなんかしてない!」
「杉原さん、皆に嫌われちゃうわよ?」
「信じてくれないなら友達なんて要らない。」
「…とにかく家の方に迎えに来てもらいましょう。今日は帰りなさい。」
結局教師も人間だよね、人の話しなんか聞かないでさ。腐ってんじゃん。
そこから私の性格は、歪み始めていった。

ー過去終了ー
あはは、この感覚懐かしいなぁ…
結構きついんだけどね…
「先生、私早退します。明日転校届けください。」
「るーちゃん辞めるの?!」
「ここにいるクラスメイトとか思ってるんでしょ?来るなって。ならこの学校辞める。別の高校に行くよ。」
「あんなに努力したのにか?」
「…それに関しては感謝してる。でもここにはもういられないから。じゃ。」
鞄を持って私は教室から出て行った。
後ろでなんか叫んでるけれど。
振り向かなかった。