「んっ…」
「起きたか?」
「あれ?」
いつの間にか寝てたんだ。
「何でここにいるんだ?」
「友美さんに晩御飯食べて行ってって言われて来た、家についたときにおばさんに呼んできてって言われた。」
「そうか、あんがと。」
「ん、でもまだ危険かもね。」
「は?」
「友美さん今怒られてると思うから。」
「何したんだよ。」
「バイクのスピード。」
「それじゃ仕方ないか。」
「うん。」
…気まずいなぁ…
今までこんな事無かったけど、今はもう他人みたいなものだからね。
幼馴染でもなければ彼女でもないし。
友人とも言えないのかも知れないしね。

「瑠璃、あのさ。」
「何?」
「もう戻れないのか?前みたいに…」
「…同じ事なんか繰り返したくないの。」
「でも今度は…「今度は何?俺が守るからって?」あぁ。」
「そんな言葉なんか信じない。言葉なんて薄っぺらいもの。もう関わらないで欲しい。金輪際ね。」
「瑠璃。」
「それともう何の関係も無いんだから名前で呼ばないで。」

ズキッと心が痛む。
これ以上冷を巻き込みたくは無い。
その為にはこうして傷つけるしか方法は考えられなかった。

「分かった…本当にごめんな。」
「…もう関係ない。」
「最後にひとつだけ良いか?」
「何?」
「抱きしめさせてくれ。それでもう関わろうとしないから…」
「…分かった。」
そういったら冷は、優しく包み込むように抱きしめてきた。
割れ物を扱うかのようにそっと…
その腕は震えていた。
抱きしめ返したい衝動を必死に押さえ込んでいた。
自分で突き放したんだから、そんなことはしたくなかった。抱きしめ返したら決心が鈍るし、冷をきっと求めるから。

「ごめん瑠璃…ごめんな…」
「……」
冷が謝るけれど、その言葉に返答はしなかった。その代わりに一粒の涙だけが流れた…

しばらくして冷は離れた。

「ごめんな、格好悪ぃな俺…」
「…」
”そんなこと無いよ””悪いのは私なんだよ?”
そんな言葉すらもう言えないんだ。
重い空気が私と冷の間を流れた。
「下にいこっか。もう説教も終わってると思うし。」
「あぁ…」

部屋から出たら、友美さんがいた。
何だかやつれている気がしたけど…;
気にしないようにしよう。

「ご馳走様でした。」
「またいつでも来てね。」
「あ…はい。」
「送るわ、自転車なら安全でしょ?」
「ありがとうございます。」
友美さんの自転車の後ろに乗って、送ってもらった。

「はい、到着♪」
「ありがとうございました。」
「いいのよ、ねぇ瑠璃ちゃん?」
「はい?」
「冷と別れたの?」
「…はい。」
「そう、後悔とかする結論はしちゃだめよ?後悔した時にはもう遅かったりするんだから。」
そういう友美さんは、何だかとても苦しそうだった。
友美さんの過去に何かあったのかもしれないけれど、深く聞く事はしたくない。
もう思い出したくないのかもしれないもん。
「分かってます、でも…どうする事も出来ないんです。私が自分で手を離したんです。後悔はしません。」
「そう、分かったわ。もう何も言わない。おやすみなさい。」
「おやすみなさい友美さん。」

自転車で帰る友美さんの背中を見えなくなるまで見つめていた。
見えなくなって、私は家の中に入って自分の部屋に向かった。
部屋に鞄を投げて、ベッドにダイブした。

もう冷に触れることができない。
抱きつく事も、泣きつく事も出来ない…
自分で突き放したのにね、もう後悔してるよ。
友美さんに後悔しないって言ったばっかりなのに…
苦しいよ…寂しいよ…
「冷…寂しいよ…」
泣くのは今日で終わり。明日からは笑わなくちゃ。
もう泣かない。笑顔でいる。

もう、苦しみたくはない…