ここまで笑ったのって、いつが最後だったっけ?

あんまり記憶無いな。もうどうでもいいっておもってたし…

「瑠璃?」
「ん?なんでもないよ。」
「そっか。」
「うん。」

冷と視線が交わる事は無かった。
それ以上に、私が視線を合わせなかった。
合わせたくなかったからね。
もういじめはないし、自分に何も危害が及ばないことが分かってても嫌なんだ。
いじめを受けてた事実は消えないし、過去に戻れるわけが無い。

「瑠璃、あのさ…」
「…ごめん、話しかけないで。」
「瑠璃…」
「お母さんの事はありがとう、でも話したくないの。」
「…」

もう冷に迷惑かけたくない。
だからわざと突き放す。一番傷つく言葉で冷を突き放すの。

「もう話しかけないで。迷惑だから。」
「るーちゃん…」

教室からでて、お母さんのいる病院に向かった。

―病院―
「お母さん?」
「瑠璃、いらっしゃい。」
いらっしゃいじゃ無いっての…
何をのんきに言ってるんだか…
「のん気に言わないでよ、すっごく心配したんだからね?」
「ごめんねぇ~、もう平気よ。」
「ならいいけど…」
病院だから大声出せないからね。
でも、本当に無事でよかった。
「瑠璃?」
「えっ…?」
あれ?何で泣いて…
「心配かけちゃったみたいね、本当に…」
「ほんとだよ、お母さんのバカ…」
「ごめんって、ほらおいで?」
「うぅ~…」
お母さんの元へ行って、抱きついた。
お母さんは背中をさすってくれた。それが心地よかった。
「お母さんのバカ、バカバカ…無茶しないでって言ったよねぇ?一人になるかと思ったじゃんかぁ…お父さんのところに逝くかと思っ…た…」
「そうね、不安にさせちゃったわね。まだ逝かないわ。大丈夫。安心して?」
「うん……」
本気で不安になったのはいつ振りなんだろう?
最近感情自体なくなってきてたからそんなのは覚えていなかった。
けれど本気で今日は心配した。
一人になるのが怖かった。…もう大切な人を失うことなんてしたく無かったから。

「それじゃ、また明日来るね。お母さん。」
「えぇ、おやすみなさい瑠璃。」
「おやすみ、お母さん。」
病室を出て、私は病院から出た。
外はもう真っ暗だった。そりゃそうだよね…
今の時間だったら、外も暗くなるよ。
因みに今の時刻は夜中の9:30。
どうやって帰ろっかな~って思った。
だって家遠いんだもん。ダル…
そんなこと思ってた。
そんな時…
「ヘーイ彼女さん♪一人?」
「へっ?!」
どっかで聞いた事のあるような声にびっくりした。
「友美さん?!」
「送るわ、後ろに乗って頂戴?」
「あ、ありがとうございます。」

友美さんのバイクに跨って、家まで送ってもらう事にした。

「何で友美さん私の居場所を知ってたんですか?」
「あぁ、冷から電話が来たのよ。それで迎えにきたの。」
「そうですか…」

あんなに冷たく突き放したのに、どうして優しくするの?
どうして…
そのさり気ない冷の優しさに私は胸が痛んだ。
冷たくして、冷を傷つけたのに冷は優しくする。
これじゃ何の為に冷を突き放したのか分からないよ…

「瑠璃ちゃん、今日は晩御飯うちで食べましょ?」
「でも、迷惑に…」
「あら、お母さんが言ったのよ。瑠璃ちゃんを連れてきなさいって。」
「そうなんですか?」
「えぇ、いいかしら?それに、一人で食べるより数人で食べる方がおいしいわ。」
「…それじゃ、お言葉に甘えさせていただきます。」
「それじゃ、飛ばすわよ!!」
「へ?キャーー!!!」

いきなりスピードを上げられたので、私は驚いて悲鳴を上げてしまった。
友美さんはそんなことはお構いなしに、スピードを上げた。

「疲れた…」
「あはは、おもしろかった!」
「面白いじゃないですよ!」
「ごめんごめん。ただいまー!」
「お邪魔します。」

気まずいな、冷に会ったら。
まぁ、冷の家何だから当たり前なんだけどね。
「お帰りなさい。あらあら瑠璃ちゃん。久しぶり♪」
「お久しぶりです…」
あまりにも大声を出しすぎたので、疲れた。
「瑠璃ちゃん。いらっしゃい。」
「お邪魔します。」
「今瑠璃ちゃんの分もできたわ。冷を呼んできてもらえるかしら?」
「えっ?」
「私は少しお説教をしなければならないのよ。ね?友美…?」
ドス黒い声が聞こえる上に、何だか知らないけど背中に黒いものが見えた。
何だか怖いですよー??
「それじゃ、私は冷のとこに行きます。」
「はーい♪」
「助けてぇぇぇ!!!」
ごめんなさい友美さん、何もできません。
生きて帰ってきてください。
コンコンッ…―
扉を叩いてみたけれど、中から声が聞こえなかった。
どうしよう、呼んでって言われたけど…
気まずい上に、今彼女でもないのに中に入るのはちょっと…
ズキッっと胸が痛んだ。
自分が傷付く資格なんてないのにね。
自分で突き放したんだからって言い聞かせた。
ドアの前で深呼吸して、中に入った。

久しぶりに入る冷の部屋。
何も変わってない冷の部屋。
冷はベッドで寝ていた。

「本当に綺麗な顔してるなぁ、むかつく…」
ペシッと軽く頭を叩いた。
それでも起きたりはしない、それ以上に反応すらなかった。
寝てる冷の隣に座った。
なんか眠くなってきて、私は眠った。

―冷サイド―
「ん…」
いつの間にか寝てたみてぇだな。
ここんところ何だかんだで忙しかったからな。
サラッと右手が何かに触れた。
起き上がるのはだるいから、顔を右に向けた。
そこにいたのは、眠っている瑠璃だった。

「っ?!」
何で瑠璃がここに?!てか俺の部屋だよなここ?!
は?!なんで?!
パニックになるけど、起こさない様に俺はゆっくりと起き上がった。

「とにかくこのままじゃ、瑠璃は風邪引くし…」
瑠璃を抱き上げて、さっきまで俺が寝ていたベッドに寝かせた。
寝ている瑠璃の顔を見ていた。
瑠璃、中学に比べて確実に変わった。
顔の傷が一つも残ってないし、それ以上に傷跡一つ残ってない。
あの頃の瑠璃は荒れ具合が半端なく酷かった。
よく投げられたなぁ…;

―過去―
「よう、今日も荒れてんな。」
「だったら気安く話しかけてくんなっての。」
「まぁまぁ、そんな事言わないで…」
肩にポンッと、手を置いたら俺は一本背負いをされた。
「痛ぇ…」
「触るなって言ってんだろ?」
背中がかなり痛い。
俺は背中をさすりながら立ち上がった。
「毎回毎回懲りないよね、学べよ。」
「俺はすっぱりと忘れるのがポリシーだ。」
「バカじゃんそれはただの。」
「なんと!」
「くたばれ。」
毎日このやり取りしていた。これが俺と瑠璃の会話だった。
周りの奴らには、おかしいとか言われてたけどな。
このやり取りをしながら俺らは学校へと行くのが日課だった。

学校に着くなり、瑠璃は屋上へ向かってサボる。
俺は教室へ行く。これが俺らの日課でもあった。
学校ではあまり関わらない。これが暗黙の約束だった。話しかけようとしたら瑠璃に投げられて、思いっきり吹っ飛んだんだ。
”関わんなって言ってんのがわかんねぇのか?この女ったらしが。”
そういう瑠璃の目はもの凄く冷たくて鋭かった。
いやぁ、今の瑠璃からだと全く想像つかねぇんだよなぁ。

―過去終了―
今じゃ全くの別人みたいだしなぁ。
やっぱり俺の目に狂いは無かったな!
めちゃくちゃ可愛くなったし。喧嘩もしてないし。
せっかく瑠璃の理想の男に自分でなったくせに、俺が瑠璃を裏切ってんじゃねぇか。

過去に戻る事ができればいいのにな、それなら今すぐ俺はあの時自分でした行動を帰るのに…
それかあの選択をした自分を殴りに行くのに。
過去には戻れない、もう俺は瑠璃に触れる事さえ許されないんだ。
瑠璃の話を聞かなかった俺…自業自得だよな。
触れられる距離にいるのに触れられない。
ズキッと痛む心を知らないふりをして、自分の気持ちから目をそらした。