冷って奴には俺の過去を話した。
瑠璃は本当に俺の彼女に似ていた。
意地っ張りだけど優しくて、毒舌な所…
全体的に似ていた。

だからかもしれない瑠璃を見て、思った。
『同じことになってる奴を見捨てられない』
自分の犯した過ちで、俺は自分の大切な彼女を殺したもんだからな。

あの頃の俺は、死んでるみたいだって言われていた。
―――――

「なによ!空のバカ!」
「バカはお前じゃねぇのかよ!いい加減にしろ!」
「何も知らないくせによくそんな事が言えるわね!」
「咲が何も言わないからだろ!」
「言わないに決まってるじゃない!」
「だったら文句言うんじゃねぇよ!」
咲が何を言いたいのかもわからなくて、喧嘩しかしてなかった。
「っ…何も分かってくれないじゃない…何を言っても誰も…分かってなんかくれないわよ…」
「んだよいきなり静かになって…」
「なんでもないわよ、バカ空。」
「可愛くねぇ奴。」
「っ!…余計なお世話よ!どうせ私は可愛さの欠片も何も無いわよ!」
「確かにねぇなぁ。」
「……」
「?」
何時もならここでまた喧嘩が始まるのに、咲は何も言ってはこなかった。
俯いて俺と目を合わせなかった。
「空のバカ!大っ嫌い!」
「咲!」
咲が走っていったのを俺はすぐに追いかけたけど、見失ったんだ。
何時間もかけて咲を探したけど、見つからなくて俺は咲の家に行った。
もしかしたら咲は家に帰ったのかもしれないと思ったから。
けれど咲は家にか帰ってないといわれた。
俺の心の中には焦りがあった。
今日は一段と風も強く台風が今日ここに上陸する。
そんな中外なんかにいたら危険だ。
咲が怪我してからじゃ遅いんだ。
だったら尚更早く咲を探し出さなきゃならない。
「どこにいんだよ咲!」
脳ミソをフル回転させて咲の行きそうな場所を考える。
行ってないといえば海辺…
流石にこんな天気では行かないと思ってたけど行くしかない。
俺は限界の来ている足を無理やり動かして、俺は全速力で走っていった。
嫌な予感が、俺の頭をよぎった…

「咲!!どこだ!咲ー!」
風の音で聞こえてないと思うけど、咲の名前を大声で呼んだ。
海辺を見渡したら、海に人影が見えた。
制服で海の中へと進んでいたのは咲だった。
「咲!戻って来い!咲!!」
台風で海は荒れていて、いつ波に飲み込まれても可笑しくはなかった。
咲の元へと急いで俺も海に入っていった。
けれど思うように進まなかった。
「咲!咲ー!」
そう叫んだとき、大波が来て俺は気を失った。

浜に打ち上げられた俺は、目を覚ましたときには台風は過ぎていた。
もしかしたら咲も助かってるかもしれないと思った。
咲を探すために俺は、海辺を探し回った。
でも咲は見つからなかった。
毎日毎日、俺は海に行って咲を探した。
それから数日後、俺は咲らしき人物を見つけた。
遠目からで分からなかったけれど、近づいていくに連れて誰なのか分かった。
咲であって欲しいのと別人でいて欲しい。
そんな矛盾した考えを持っていた。
うつぶせに倒れていた、制服で…
それも”咲と同じ制服”…
仰向けにしたときに確信した。
倒れていたのは”咲本人”だったんだ。
もう息は無くて、死んでいた。
眠ってるんじゃないかって思うほど綺麗で、今にも冗談だよって笑ってくれないかと思った。
「冗談だろ?咲…笑ってくれよ…起きてくれよ…咲!喋ってくれよ!俺が悪かったから…咲の好きな所に連れていってやるから、起きねぇと連れて行けないじゃねぇかよ…咲…」
頭では分かってた。もう二度と咲が起きない何てことは…
でも認めたくは無かった。
何処かで認めたくなくて否定してたんだ。
咲を俺はゆっくりと抱き上げて、咲の家へと向かった。

「はい…」
「西原です。咲を見つけました。」
バンッと勢いよくドアを開けて出てきた咲の両親。
「咲!!」
「西原君、咲はどこに?」
「…砂浜です。」
「眠っているのよね?咲は…」
「…いえ、もう咲は起きません…」
「…冗談は辞めてくれないか?」
「事実です。咲はもう…」
「そんなっ…」
「咲をこっちに渡してくれないか?」
俺の返事を聞かないで、咲は俺の腕から離れていった。
「帰ってくれないか?」
「でも…」
「君の顔を私は二度と見たくない。」
「…」
「帰ってくれ!」
「…申し訳ありませんでした。」
頭を深く下げて、俺は家に帰っていった。

家についても俺は自室にこもって、外に出ることは無かった。
学校にも全然行かずに、留年ギリギリだった。

「空…今日咲ちゃんのお通夜よ?行かないの?」
「…行くよ…」
重い足取りで俺は母さんと咲の最期の挨拶に向かった。

「咲…何で先に逝っちゃったの?」
「親より先に逝くなんて許さないぞ咲…」
「空…来たんだな。」
「あぁ…」
「西原さん…」
母さんは、咲の母親と話していた。
俺は咲の父親と気まずい空気になっていた。

「二度と顔を見たくないと言った筈だが?君のその耳は飾りかね?」
「そう言われても構いません。」
「なら帰ってくれないかい?」
「それだけは聞けません。」
「君が咲を殺したも同然だと分からないのかね!」
「十分分かっています。」
「なら帰りたまえ!娘を殺した人間なんかに挨拶はさせん!」
「あなた…」
「せめて咲に謝りたいんです。それだけはさせてください。お願いします。」
頭を深く下げて、俺は言った。

咲に謝らなくちゃいけなかったのに、俺は咲に謝ることはできなかった。
それが俺の一番の後悔だった。
謝りたかったのに謝る咲がいない…
俺にとってそれは苦痛だ。
もう二度と会えないし話せない。
俺はもうこれ以上後悔はしたくないんだ。

「……それでも私は君を…「あなた、いい加減にしたらどうなの?」何を…」
咲のお母さんが、俺達の口論に口を出すなんて初めてだ。
「空君がいなかったら、私たちは咲にもう会う事も出来なかったかも知れないのよ?咲が帰ってこなかったときも、あなたは待ってるだけで探しに行くこともしなかったじゃない。空君は何日も何日も探し回ってくれたのよ?台風が来るってわかってるのに、空君は外を探しまくってくれた。あなたにはその行動を認めないの?」
「それはそうだが…」
「謝りたい理由は、私にはわからないけれど…これ以上空君を苦しめたくはないのよ。」

知らず知らずのうちに涙が出ていた…
俺が咲を殺したも同然なのに、咲の母さんは俺を追い詰めるようなことも言わなかった。
「お願いします。咲に謝らせてください。」
俺はもう一度咲のお父さんに頭を下げた。
ここで断られたら、後悔するだけだ。それだけは絶対にしたくなかった。

「…咲を見つけてくれた借りは返さないといけないからな。」
「っ、ありがとうございます。」
ようやく咲のお父さんからの許可が下りて、少し安心した。
咲の入ってる棺に入っている咲を見つめた。

咲の顔は穏やかで、眠ってるように見えた。
見つけたときと変わらず、今にでも本当に起きるんじゃないかってくらいに綺麗だった。
いつも俺に向けてくれの笑顔。俺の好きな
笑い声・透き通るような歌声…
そんな咲の全てが俺は好きだった。
いつも明るくても、時折見せる苦しそうな顔。俺には全て話してくれて、俺には全て見せてくれた。
そんな咲を俺は愛していたんだ。 咲と付き合うことになったときに、俺は自分で決めた事があった。
”何があっても咲を苦しめない”
そう決めたんだ。なのに俺は自分でそれを自ら裏切った。

「ごめん咲。俺が悪かった。咲を守るって…苦しめないなんて言ったのに、俺はそれを守れなかった。本当にごめん咲。もう一度笑って欲しいのに…ちゃんとお前に謝ることもできないんだよな?ごめんな。」
咲の顔に触れて、俺は言った。
手から伝わってくるのは、暖かい温度ではなく冷たかった。
それに触れて、俺は本当に咲はもう目覚めないんだと実感した。
「おやすみ、咲…」
咲に別れを告げて、俺は手を引いた。

その後、俺は最期まで泣きっぱなしだった。
友達も泣いてたけれど、俺を見てありえないと言う顔をしてたけど何も言ってくることは無かった。

――――――

「頑張れよ冷…後悔したくないならな。」
「あぁ、ありがとな。」
例が瑠璃の部屋に入ったのを見届けて、俺は部屋の前に座っていた。