瑠璃が走り去って行くのを、俺は追いかけもしないでただ見つめていた。どんどんと小さくなっていく瑠璃の背中を消えるまで見つめていた。
「学校、行かねぇとな…」
重い足取りで俺は学校へと向かった。
頭の中は瑠璃でいっぱいだった。
記憶の中にいる瑠璃の表情は、曇りの無い笑顔だった。
でも今その笑顔を俺は見ることが出来ない。瑠璃の居場所を壊したのが自分だから。
早く謝らなくちゃいけないのに自分自身で行動することが出来ない…
「とにかく行こう。それからだ…」
歩いていた足を速めて、走って学校へ向かった。

―学校の教室―
「おぉ!今日は一人なんだな、カイ。」
「ちょっとな、かなたちはどこだ?」
「あそこでなみが荒れてるから誰も近づかねぇ。いったい何があったんだ?」
「ちょっとな;」
なみの叫び声がよく聞こえる、クラスの人間は焦ってちょっとざわついていた。
「なんなのよ!!本当にむかつく~!!」
「落ち着けよなみ;」
「カイ、るーちゃんは?」
心配して近づいてきたかなは小さい声で聞いてきた。
きっとなみ達は瑠璃の話を聞きたくないから小さい声で聞いてきた。
「あぁ…帰った…また俺は謝れなかった。」
「そう…」
「俺が瑠璃の場所を奪ったのにこんなんでいいのかな?」
「カイ…」
「てか、瑠璃は何で嫌われ始めたんだ?瑠璃の性格なら嫌われるなんて無いと思うんだけど…」
「確かにそうだね、何でるーちゃんは嫌われてんのかな?」
ずっと疑問だったことはそれだ。
瑠璃は誰にでも平等で、嫌われる要素なんて何一つ無いはず…
なのになんで嫌われてるのかが不思議だった。
「なみ、何でるーちゃんは嫌われてるの?」
「え?それは……」
「なに?」
「何でだっけ?あれ?健わかる?」
「あぁ、確か冷と付き合ってるってことだろ?」
「それだけ?でも今付き合ってないし関係ないじゃんか。」
「そうね、”カイ”がぶち壊したんだものね。」
「ほんとに申し訳ありません。ごめんなさい。」
土下座してかなに謝る。
でもそれなら可笑しい。冷と別れさせる事が目的ならもう終わってるから嫌われる必要なんて無いはず。ならなんで…?
「健は何か知らないのか?」
「何かって何だよ。」
「何か瑠璃が可笑しかったとかないのかって話し。」
「あ~っと…最後にメールしたときは可笑しかったな。」
「どんな感じで?」
「なんか何も信じる気がないって感じでさ。えっとあったあった。これだよ。」
「サンキュー。」
その時のメールを開いてくれた。俺は健の携帯を受け取ってメールを読んだ。

《軽蔑すんならすれば??人なんて嫌い。嫌いになったから、表面上だけの友情なんていらないし、友情なんて馬鹿らしいよ。愛情なんて馬っ鹿みたい。》

…コレハイッタイ誰ガ書イタンデスカイ?なんか怖いでっせ☆
じゃねぇって!バカやってるときじゃない!
「こんなこと書く瑠璃なんて俺初めてみるかも知れねぇ、瑠璃はこんなこと絶対言わねぇし…」
「俺も今になって思ったんだよ。それ来た時は頭に血が上ってて…」
「なみは何か知らないの?」
「…前日にいつも瑠璃を嫌ってる子達に言われたの。これ以上瑠璃といるとあなたも同じ目に合わせてやるって…それで…その…少し瑠璃を私は嫌ってて、少しは自立してくれると思って…」
「なみはるーちゃんといるときは楽しいって思うときはなかったの?嫌っていたといてもちょっとは思うこともあるはずだよ?」
「あ…」
なみはかなの言った言葉を聞いて、少し瞳が潤んでいた。
きっと楽しいこともあったのに瑠璃を苦しめた事に気づいたんじゃないかと思う。
「私…瑠璃に謝らなきゃ…」
「なみは気づいたんだね…健たちはどうなの?まだこれでもるーちゃんが悪いって思うの?」
「「……」」
かなの言葉に冷と健は黙り込む…
なみはというと、泣いていた。そのなみをかなは抱きしめて慰めていた。
「瑠璃をいじめていた原因を作ったのは俺なんだよな…」
「冷…俺もいけないんだよな、ちゃんと話しを聞けばよかった。」
「俺さ、本当は知ってたんだよ。瑠璃がいじめられているってことをさ…」
「どういうこと?」
「瑠璃と別れてからさ……――」

冷の口から話される事実に俺たちは呆然とすることしか出来なかった。
俺とかなが引っ越す前にも瑠璃はいじめを受けていた。でもそこまで過酷ないじめは受けていなくて、すぐに収まった。
いじめの話なんて瑠璃の口から聞いたことは無かった。
瑠璃は何でもかんでも自分のことになると誰にも話したり相談することなく、一人で抱え込む。それで自分自身を傷つけて苦しむ…それは俺とかながよく知っている。だから俺とかなは何があって瑠璃の味方でいる事をかなと決めている。

「そんなことがあったんだ…」
「放課後に皆で瑠璃の家に行こうぜ?許されることじゃないけど、謝り続けて瑠璃の味方でいようぜ。」
「そうね、まぁとりあえず…」
あ…かなの後ろから俺はどす黒い気配を感じる;
こりゃマジ切れするかもしれないな…
止められればいいな、俺…;;
あぁ、そういや前にもあったけど瑠璃に関することだと本気で怖いんだよな。かなは…;
「かな…?」
「瑠璃のことをこんなにした人間をどうやって反省させるかを考えましょうか。ここまで瑠璃を苦しめて泣かせたのは私が許さないわ…」
「かなぁぁ!その目はやめて!マジで怖いわ!目が笑ってねぇから!」
「カイも同罪よ?分かってる?貴方も苦しめて瑠璃をあそこまで追い込んだんだからね?理解しているのかしら?何であんなことしたのかしら?今ここで全て吐きなさい?さぁ、今すぐ私がカイにお仕置きする前に吐いたほうが身の為なのよ?その事についてならカイが一番よく分かってるわよね?」
「本気で俺を殺すきかぁぁ! ;」
「あらあら、何をおっしゃるのかしら?自分がしたことがどれだけ瑠璃を傷つけてきたのか分かるかしら?それも私の怒りにも触れたのよ?分かってるのかしら?さっさと吐きなさい。」
「ごめんなさい!ちょっとしたふざけです!いつのものように瑠璃が反応するからからかっただけでこんな事になるなんて思わなかったんです!」
マジ切れしてるよぉ!これじゃ俺はもう明日の希望の光すらないよ!
ごめんなさい、こんなになるならもっと早く瑠璃に謝ればよかったよ…
「死ぬ前に遺言書を書かせてください。」
「頭大丈夫か?」
「自信ないです。俺が明日学校に来なかったら机に上に勿忘草を供えてください。」
「別に殺しやしないけど…」
「とりあえず、今から瑠璃の家に行きましょうか。」
「あぁ、そうだな…」
担任が来る前に俺たちは、鞄を持って瑠璃の家に向かおうとした。その時、教室に来た一人の男子…
その男子は、冷の親友の大悟だった。
「冷、ちょっといいか?」
「どうしたんだよ…」
「このメール見ろよ…」
「は?」
「瑠璃のメールだよ…冷と別れてからのメールだ。一言一句見逃さないで読めよ…」
「あぁ…」
大悟の携帯を受け取った冷は、瑠璃のメールを読んでいた…
俺らは読み終えるのを待って、静かにしていた。


その傍らで俺はかなからお仕置きをされていた。
健となみは青ざめていたが、”いつもこんな感じだから気にしないでね♪”とかかながいったので、手助けすらしてくれなかった;