周りは人間だらけ。
前の俺なら苦しんでいただろう。
でも今は違う。俺はもう前の俺じゃない、吸血鬼の俺じゃない・・・さゆみと同じ人間、人間なんだ・・・――――。
(人間じゃない。)
・・・・・はっ?
(お前は人間じゃない。)
「――っ―!!!」
誰だ・・・!?今、確かに声がした。何処から、
(此処だよ。お前の中さ。)
・・・。
(ほぅ。驚かないんだな。)
「…お前は誰だ。何処から俺の声を聞いている?」
(さっき言ったじゃないか。お前の中…)
「寝言は寝て言え。正直に答えろ。」
(………。)
「………。」
(…だーかーらー、お前の中にいるって言ってんじゃんかよー。)
「………。」
おかしい、頭の中から直接声が聞こえてくる。どういう事だ?テレパシーでも送っているのか?それとも、本当に俺の中から・・・。
(さっきから言ってるじゃねーか、いい加減分かれよ。)
・・・はっ?こいつ何威張ってんだよ、バカなのか?
(いやいやいやいやいや、俺バカじゃないし!お前の方がバカだと思うよ!?何で分かんないんだよっ!?お前自身の事なんだから分かるだろうYOッ!!お前アホだろ?YOッ!!)
こいつ、うるさいな・・・(怒)。
(うわー、傷付くなー…)
で、さっきのはどういう事だ?
(えっ何が?)
はぁ・・・。俺が人間じゃないってことと、俺自身の事だから分かるだろってこと。
(あー、それね。)
どういう意味だよ。
(そのまんまの意味だよ。)
だからどういう―――、
(俺はお前と同じものだって事だよ。)
俺と、同じもの?
(分かりやすく言うと、もう1人の滝川龍牙って事だよ。)
・・・もう1人の、俺?
(あー最初に言っておくけど、二重人格とは違うからね。)
・・・まぁそれはもういいや、お前が誰だろうと。
(えっ!?ちょっとそれ酷くないっ!?質問してきたのはそっちだよねっ!?)
お前、最初と話し方変わってない?
(うん。)
何で?
(だってー、何かかっこよく言いたかったんだもん。でもめんどくさくなっちゃったから止めた♪)
諦めの早い奴だな。
(それはどうも。)
・・・それで?
(…え?)
お前さっき、わざともう1つの質問に答えなかっただろ。
(あっ、バレちゃった?別にもう良くない?)
良くない。
(しょうがないなー。今回は特別に教えてあ・げ・る♪)
・・・・・。
(あれ?引いちゃった(笑)?ごっめーんねー♪)
早く話しやがれ。
(はいはーい…俺がお前に人間じゃないって言ったのはただの嘘とか冗談とかじゃなくて、ちゃんと理由があって言ったんだよ。)
何だよ、理由って。
(昔いたんだよ。お前と似たような奴が。)
・・・。
(よく分かっていないようだね。詳しく説明するとね、こういう事なんだよ…)
・・・・・どういう事だよっ!?
(まぁまぁ、焦らない焦らない。)
っ(怒)!!
(長くなるけどちゃんと聞いてね。)
分かってるよ。
(…これは、ある1人の人間の昔話・・・――――)

ある日1人の心の暖かい男の子がいました。その男の子は皆から愛されていました。家族からも学校の友達からも先生からも皆から愛されていました。
しかし悲劇は突然やってきました。その男の子はいつの間にか恐ろしい化け物になってしまい、皆から恐れられました。男の子は訳が分かりませんでした。見た目はいつもと同じなのに、自分のどこが化け物になったのか、自分が何故こういうことになったのか分かりません。
化け物になった男の子は皆から恐れられ、昨日まで一緒に遊んでいた友達や、昨日まで勉強を教えてくれた先生、昨日までずっと一緒に暮らしてきた家族でさえも男の子を恐れ、拒絶しました。
化け物になった男の子は皆を憎み恨むようになり、日に日に心が氷のように凍っていきました。以前のような面影は全く無く、あんなに暖かい心を持っていたはずの心は闇より深き場所に落ちていき、感情を無くし、憎しみから人を襲い、完全な化け物と化してしまったのです。
吸血鬼いう化け物に・・・―――――。

・・・それだけか?
(何が?)
そんな昔話が理由で俺は人間じゃないと決めつけられるのか?
人間が吸血鬼になるのなんて有り得ないことじゃない。契約により人間が吸血鬼に、吸血鬼が人間になる事だってあるんだ。現に俺は契約を、
(そういう事じゃないんだよ。)
・・・。
(契約をしてるしてないの問題じゃないんだよ…この話には裏があるんだ。)
裏?
(そう、何だと思う?)
そんなの知るかよ。
(たぶん、考えても分からないと思うよ。)
何でだよ?
(だって、普通では有り得ないことだからさ。)
普通では有り得ないこと?
(そ。実はその人間は…人間でもない、吸血鬼でもない。ましてやこの世界…いやこの時空には存在しないモノだったんだよ。)
・・・はっ?お前何言ってんの、んなの有り得るわけねーだろ。
(そうだね、普通はそういう思うよね。でもね、本当の事なんだよ。
お前もよく知っていると思うよ。)
俺が知っている・俺が、知っている・・・モノ・・・―――――っ!!
「まさか―――っ!!!」
「どうしたの、龍牙?」
「っ!さゆみ…」
「何?」
「…いや、何でもない。」
「?」
「おい、そんなとこで突っ立ってないで早く行くぞ。」
「え、あっうん!龍牙行こ♪」
さゆみが手を差し伸べてきた。
「あぁ…」
俺はその手を離れないように少し強めに握った―――――。

「ククク(笑)さぁてお前がこれからどうするのか楽しみだなー♪
俺を楽しませてくれよ、滝川龍牙……」