俺と新との間にあった、分厚い向こう側が見えないくらい大きな壁は無くなった。でも壁自体が無くなったわけじゃない。
俺は、まだ新に触れられない。
まだ俺と新との間には、透明な薄いガラスの壁がある。
まだ新は俺に心を開いてはくれない。
まだ新は俺を拒絶している・・・いや「俺」じゃないな。さゆみ以外の生き物全てを拒絶しているほうが正しいのかもしれない。
「…当たり前、か。」
そうだよな。新をそうさせたのは俺で、俺が原因で新は人としての生き方が出来なくなってしまった―――――。

『おい、ここ何処だよっ!!』
『何で俺がこんなところに連れて来られてんだよっ!!』
『誰か答えろよっ!!』
『帰せっ!!俺がいたところに帰せっ!!』
『おい、何すんだよっ!!離せよっ!!』
『んだよ、俺が何したっていうんだよっ!!』
『やめろ、やめろやめろやめろっ!!やめてくれっ!!!』
『頼むからやめてくれっ!!俺を、さゆみのところに帰してくれよっ!!』
『嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!やめてくれぇぇぇーーーーーーーー!!!!』

「……っ…」
何故俺は、あの時止めなかったんだろう。
何故俺は、あの時一言も言えなかったんだろう・・・ただ、
『もういい、止めてくれ。』
『もう二度と我儘なんか言わない。』
『二度と父さんに逆らわない。』
『必ず父さんの言い付けを守るから。』
『早くその子を離してやってくれ。』
『早くその子を大事な人のところへ帰させてやってくれ。』
・・・・・たった一言。たった一言俺が言えば済む話だった。
なのに何故俺は言えなかった?
そんなのもう分かりきっている。
自分でも嫌気が差す。
俺は、たださゆみと居たかった。さゆみと居られるなら、誰がどうなろうとどうでもよかった。
そう、それが人間だろうと吸血鬼だろうとも・・・――――。

人間の気持ちなんて分からない、ただ一つだけ言えるとするならば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人間は、弱い生き物と言うだけだ。