玄関に靴を揃えて、長い廊下を歩き、食堂についた。食堂には何人かの男女で賑わっていた。
「ただいま」
「仁っ、おかえりー。中学校、どうだった?」
「普通」
「ふふふっ、お疲れ様」
 スクールバックをテーブルにおいて、椅子に座った。
 すると友人・境夜がやって来て言った。
「仁、零さんが呼んでたぜ」
「お、わかった…。なんだろう」
「どーせまた、実験だろ?」
 笑いながら去っていく友人の背中を眺めながら、俺はすぐに立ち上がった。
 また、長い廊下に出て歩き始めた。
 零さんと俺が出会ったのは、零さんが襲名した3か月後のことだった。
 急に零さん直々に呼ばれ、最高責任者専用研究施設・4番に向かった。       責任者という役職のせいもあって、白衣の小太りなおっさんだと思っていた。
 いざ、部屋に入ってみると、中にいたのは10代くらいにみえる男だった。床につきそうな白衣に細い体つき、柔らかい視線と癖のない黒い髪。研究者とは思えない、どこか安心感のある男だった。
 そのときの会話を今でも覚えている。
「やぁ、君が向日葵(むかいび あおい)くん?」
「ええ、初めまして。ミスター零」
「その呼び方は止めてくれ、苦手だ」
「なら俺もその名前で呼ばないで下さい」
「何故?嫌いかい?この名前」
「母を思い出すので…」
「ふぅん」
 零は俺と視線を合わせて言った。
「君のことは、そのお母さんに頼まれたんだけどね」
「…」
 零は俺の眼の奥を覗くように見て、静かに立ち上がった。
「君は僕の養子になったんだよ」
 一息
「君の名前は今日から大神仁だ」
***
 あのときの零さんの迫力といったらなかった。
 長い廊下の一番奥。最高責任者室とかかれた部屋に着いた。
 俺は軽くドアを叩き、入った。
「零さん、仁です」
 と、顔を覗かせるといつも以上に嬉しそうな零さんの姿があった。
「お帰り、仁。学校どうだった?」
「楽しかったです…」
 すっと、零さんの顔から目を反らし言った。
「で、用件だけど」
 零さんは俺の反応を気にも止めずに続けた。
「新しい実験器具が出来たから、少し入ってみてくれないかな」
 零さんは、透明なボール状の機械を叩きながら言った。
「なんですか?これ」
「成長を速める機械さ」
「はぁ…、わかりました」 
 この人は俺の恩人だ。俺が出来ることは全てやりたい。何もない俺にはそれが精一杯だ。