その日から蓮の顔が頭から離れなくなった。

蓮が彼女と話しているだけでモヤモヤして、辛くて。

ヤキモチで心が埋め尽くされた。

こんな気持ちを持っちゃいけないとわかっているのに。

蓮の新しい一面を知る度に。

私に笑顔を向ける度に。

ますます好きになってしまった。

「(どーすればこの思いは消えてくれるんだろう……)」

そんなことを考えていると、

「おーい、美歌。」

誰かが私を呼んだ。

「ん?」

反射的に返事をして振り向く。

「はい。この前貸してもらった小説。」

声の主は蓮だった。

蓮にはよく小説などを貸したりしていて、今回も私がおすすめした本を貸していた。

「えっ!?もう読み終わったの?」

まだ貸して3日ぐらいしか経っていないはず。

蓮はいつも読み終わるのが早いけど、今回は特に早い。

「うん」

頷いて微笑む蓮。

目を細めて、穏やかそうに私を見つめてくる。

嬉しがるときはいつもこの表情。

私はこの表情にすごく弱い。

見るものすべてを惹きつけるような、天使の笑顔。

こういうところが好きになったのかな。

「さすが蓮。いつも早いね〜」

「まぁね〜」

心の底から感心すると、得意げに笑う蓮。

こんなところも好き。

もう、好きなところしか出てこないよ。

「これ、感動したでしょ?」

「お前、こういう系は貸すなっていっただろ!」

蓮に貸したのは、想い合う男女が互いに気持ちを伝えるけど、女の子が病気で亡くなってしまうという、とても悲しい物語。

蓮はこういう感じがすごく苦手。

すぐに泣いちゃうんだって。

「まったくー。昨日は大変だったー」

目が少し赤い。きっと、夜中に読んで一人で泣いてたんだろうな。

「今度は私が読んであげようか?」

「ばーか、自分で読んだ方がマシ」

本当は泣いてる蓮の顔が見たかっただけ。

普段、涙はおろか悔しがる顔も見せない蓮。

だから、そんな顔だって見てみたい。

でも、そんなこと言えるわけなくて。

「嘘だよ、ばーか」

わざとふざけて、騙したような返事をした。

蓮とはいつもこんな調子。

だから、絶対にこの関係を壊したくない。

蓮に直接聞いてみたらどうなるんだろう。

蓮が私と同じ立場だったらどうするか聞けば、迷惑をかけないで好きでいられるんじゃないかな。